新宿メロドラマ

安っぽいヒューマニズムは要らない。高いのを持ってこい。

すべてがFになる場合。擬声の風景。

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ベトナムについて5分話をしていると必ず聞かれるのはマンガのことだから、もうすでに日本人の国際的な自己イメージはマンガとアニメの国の人ということで揺るぎなきものになっているといって差し支えあるまい。

このブログは「ベトナム駐在員ドタバタ日記」(ゆっくりしていってね♪)ではない(し、私は駐在員ですらない)のでこういう情報には深く立ち入りたくないが、もちろん日本のマンガは相応のプレゼンスをもってベトナムの都会に溶け込んでいる。

わけても「ドラゴンボール」や「NARUTO」「名探偵コナン」といった大御所は版元がベトナム語版を流通させているように見えるが実際のところは知らない。ただ、ホーチミンシティで以前住まっていたマンションで敷地内のスーパーから買い物袋を提げて出てきたらこまっしゃくれたベトナム人富裕層のガキがコナンの単行本をもって鼻水を垂らしていたので、それを指して

「Conan is Shin-ichi.」

と云ったら凄くバカにしたような目で見られたことが忘れられない。

 

しかしマンガのローカライズというのはさぞかし大変だろうとお察しする。

吹き出しの活字を差し替えるぐらいはなんのこともなかろうし、「ULYYYYYYYYY!!!」みたいなことに至っては訳す必要もないので楽だがコマというコマを埋め尽くす擬音、擬態語の数々、それこそ「どたばた」や「うろうろ」や「ドンッ!」「ザワ・・・・」(「ザワ・・・・」の作品はベトナム語版にはなってないと思う。念のため)をいちいち消し込んでベトナム語なりのオノマトペに書き換えていくのはいったいどうやってやるのだろうか。

マンガのローカライズについてお話を聞いたことは何度かあるが、この工程だけははっきりせず、いまだに納得ができない。

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オノマトペ

日本語は擬態語と擬音語の合計にあたる「擬声語」のバリエーションがとりわけ豊富だという聞き飽きた身びいきを思わせる話を聞くこともあるが、実際どうなんだろう。

ともあれ擬声語を使うと脳のなかでいわゆる言語野とは違うところが活性化するということがいっとき話題になってネット上のキーワードランキングで「オノマトペ」が一位になったりしていたが、そんなところを活性化させてどうするのかという話は流れてこなかった。

いずれにせよその「オノマトペ」というなんとも淫靡な、直截にいえば卑猥な響きは以降私の頭にこびりついて離れない。

中学二年生のとき、教室の柱にマジックで「Fはフェラチオ」と書いたやつがいて、その詩的なセンス、つまりフェラチオについて云うのではなくFについて云っているにもかかわらずその逆の場合に比べ圧倒的なシコリティを実現した、中学二年生、それも女子。たぶん。筆跡からいって。なんかあの「Fはフェラチオ」をみながら津波のように押し寄せる性欲に身も心も奪われていた幾多の午後。その陽射し。「オノマトペ」はそんなことを思い出させてくれる大切なキーワード、思い出の玉手箱を開ける秘密の鍵だと云ってもいい。云いすぎでなければ。

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たまにいいことを云う先輩がいて、忘れられない言葉のひとつは、

「エロと動物と早死に」

であった。

下ネタ、動物ネタは誰がやってもウケるし、夭逝すれば誰でも惜しまれるということで、表現者たるものそんなものには手を出してはならないということだったが、早死にには手を出すなと云われても困るというものだろう。

せめて下ネタと動物だけは控えていきたいと思う。

すべてがFになる THE PERFECT INSIDER (講談社文庫)

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