社会保障のネットがボロでも収入は先細る日本のミドルクラスだ。長生きはリスクを構成する。
ことは経済的な問題に限らない。
特に足腰のガタから転んで骨折するか、あるいは咀嚼つまり噛む力が弱まってのどを詰まらせる嚥下障害を起こし肺炎に至るなどといったパターンを回避することは生活習慣病を遠ざけることの次に重要な「予防介護」だと吉田昭彦先生がおっしゃっていた。
めっきり無沙汰してしまっているが、この吉田先生という方はぶっ飛んでいて、学者でありながら自分の思い描くモデルを実践することに極めて余念がなく、特に食糧問題や人口問題といったほぼ最大限に巨大な問題に対して自分自身が体当たりしていくというスピリットと、ここまでくるともはや充分なビジネスマインドをお持ちな、良い意味で不埒な先生である。
砂漠化の進むイスラム地域では砂漠にキャッサバを植えろ、そして蚕みたいな虫を這わせろ。砂漠は緑化し、シルクが採れて女性に機織りの仕事が生まれ、最後に虫を食えば食糧問題も解決するというビジョンには文字通り目がくらんだ。問題はできるだけいっぺんに片付けた方がいいということらしかった。
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2005年のカナダで、ピーナッツがいまも忘れられない事件を引き起こす。
カナダでピーナッツアレルギーの15歳の少女が、おやつにピーナツバターのスナックを食べた彼氏とキスした後で死亡したと治療した病院が発表した。
地元警察はまもなく優しい嘘を発表。
いずれにせよ少年には罪がないよねというなら遺族と相談のうえこういうことにしておいてもよい。
なおこの事件に触発された私は当時「キッスで殺して(Kiss Me Twice)」という曲を物したが評価は「邦題と洋題のズレが秀逸」というものにとどまり作品自体は廃棄となった。
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吉田先生はナッツにも縁が深く、きたるべき食糧不足に備えてブラジルで和大豆の栽培を研究されていたことがあった。
なお食糧不足到来のロジックは「中国人が裕福になる→肉を大量に消費し始める→穀物は穀物として食うより飼料にする方が消費量が多くなる→世界の穀物市場逼迫」ということで、見事にただしい。
だが事業は結局失敗して「あれはね、日本とブラジルの日照時間の違いだったんだな!」とあとで原因を回想されていたが、先生が放棄されたあとの農地でついに大豆の栽培は果たされ、現在ブラジルの大豆生産量は世界第2位ということである。
さとうきび、コーヒー生豆、オレンジは世界第1位、大豆、牛肉は世界第2位、とうもろこし、鶏肉は世界第3位の生産量である。
先生が放棄されたあとの農地でというのは先生からうかがった話で、疑うわけではないが見ていたわけでもないので何ともいえない。
ただビジョンがあって、そのためには手金もなにも全部突っ込んで、失敗したってほかの誰かが成功すれば我が意を得たりというベンチャースピリットと求道心のキメラみたいなお人柄にグロテスクなところはみじんもなく、居酒屋でプロジェクトの話をし始めようものなら何時間でもという偉人であった。
お世話になっておきながら、こういう方へご挨拶しなくなってしまうのは私の大変残念なところである。
アイム・ナッツ。