新宿メロドラマ

安っぽいヒューマニズムは要らない。高いのを持ってこい。

本年43冊目〜58冊目まとめ vol.1「日本経済崩壊の部」。

f:id:boiled-pasta:20141226065219j:plain

メリークリスマス。

なぜなら米国時間では今日が2014年12月25日だからだ。

最近はネットでも嫌というほど聞かされるようになったが、アメリカ人はどんなにバカで身勝手に見えてもクリスマスはだいたい実家に帰るか家で家族と過ごすらしいので昨夜から街は割合静かでスーパーへ買い物に行ったりなどしてもそもそもバイトがほぼおらずレジの稼働率が15%ぐらいでもほとんど並ばずに勘定が済むというような次第。

クリスマス本戦の今日にしても行き交う人は少なく飲食店もやってないので通りは静まりかえっている。

それから日本人がクリスマスにKFCのフライドチキンを食うというのがアメリカ人からすると噴飯ものだというあの話は本当だ。

「えー、あれマジ?なんでKFCなのwwwwwサイテーなんだけどwwwww」

こういう反応をリアルに得られるのだが、例によってこの手のアメリカ人は本当の日本を知らない。

だいたいこのあたりが真相だと考えて間違いあるまい。

なおわたしはそもそもフライドチキンが嫌いだ。綺麗に食えないからだ。

*     *     *     *     *

えらく長いこと読書メモを公開していなかったが、kindleさんのおかげをもって本年もめでたく目標の50冊をすでに読破している。

紹介してこなかった本年43冊目〜58冊目について、なんらかのくくりごとにまとめていく。

第1回目はくどいようだが日本経済はもうダメだという自分の直感に論理的な裏付けが欲しくて勉強を続けている経済学関連書。

あまり世迷い言を云っていると不吉なヤツだと思われ忌避されるので念のため確認しておくが、日本経済崩壊に賭けるというのはそうなって欲しいと願うこととは別だ。

なぜなら日本人である我々にとり、日本経済の先行きに対する賭けは非対称だからである。

つまり日本経済が崩壊しなければそれはそれで結構なことなので、どうせなら日本経済崩壊に賭けておくのがどっちにせよ得だということだ。

こういうことを訴えたくていろいろがなり立てているのだが、聞く耳を持たないひとにまで聞かせる義理はそもそもない。

では行く。

迫り来る日本経済の崩壊

迫り来る日本経済の崩壊

 

43冊目はあられもないタイトルだが「迫り来る日本経済の崩壊」(藤巻健史幻冬舎kindle)。

この手の本はもう10年もまえから本屋にあふれかえっており、「甦る」「崩壊する」「食い尽くされる」「復活する」などともう何がなんだかよくわからない状態が続いている。

「結局何が正しいんだよ」と冷笑をくれる方々の気持ちもわからんではないが、何が正しいかはあなたがたが判断するのだとマジレスを返しておく。

本書の論旨は以下の通り。

  • 日銀の「異次元緩和」を伝統的に禁じていた原則は本質的であり、この金融政策は日銀と政府を追い詰める。
  • リフレ政策は成功しない。現実的にありうるレベルで景気が回復しても、税収は膨れあがる社会保障費をまかないつつ過去に発行された国債を償還し続けるには不足する。
  • したがって日本の金融政策は破綻し、長期金利の上昇を通じて日本の財政破綻を導く。
  • 財政の破綻は日本円の暴落を通じてようやく非効率・不合理な日本の社会構造の抜本的な変革圧力となるであろう。
  • それを経て日本経済は本質的に生まれ変わる。2020年の東京オリンピックはちょうどこの「復興期」にやってくることになるのではないか。

ジョージ・ソロスのアドバイザーを務めた「伝説のトレーダー」もいまや参院議員(維新の会)。

委員会にて閣僚からも一目置かれながら我が国の経済・財政・金融政策に対して手厳しい質問を投げかけている様は本書でも紹介されている。

しかし何よりも本書の痺れるところは終章にて語られる著者の思いと覚悟である。

曰く日本の財政をここまで悪化させたのは自分たち世代の弛緩した政治・経済観念であるがゆえ財政破綻によって年金世代が苦しむのはやむを得ない。

ただ自分はその世代の一員として、若い世代への責任を果たすため財政破綻後の日本再建にはせめて持てる力を差し出したい。

IMFはじめ国際機関が介入・主導する日本経済の構造改革へ参画を求められるべく、目立つところにいるために自分は国会議員であることを選んだというのである。

アベノミクス批判に対しては「じゃあ他にどうしろっていうの?」という反問が行われるが、どうするにせよ日本経済の崩壊はもはや避けられないのだから、崩壊したあとの再生に向け、希望を持って備えようというビジョンが非常に近未来SF的でよい。

 

銀行は裸の王様である

銀行は裸の王様である

 

 44冊目。

「銀行は裸の王様である」(アナト・アドマティ、マルティン・ヘルビッヒ/東洋経済新報社kindle)。

長い。

読みやすく分かりやすくはあるものの、書籍の体裁をとった論文であるため膨大な引用を含み、同じことを繰り返し他方面から論証するため通読するのにはなかなか根性がいる。

他方、論旨をまとめるのは簡単だ。

  • 銀行資本は自分たちの利益を拡大するために自己資本率を引き下げ、大規模な借入を行うことで経済社会に大きなリスクをもたらしている。
  • 大銀行は仮に破綻しかけても「大きすぎてつぶせない」というフレーズのもとに公的支援(納税者のカネ!)で救済されるため、最大限にリスクをとって利益を追求するモラル・ハザードにどっぷりつかっている。
  • 銀行は自己資本比率の引き上げは経済環境の悪化をもたらすと主張するが、これは偽りだ。
  • 厳格な規制と、銀行経営陣の報酬体系についての見直しが必要。経済への影響は彼らが主張する規模に比べれば遙かに軽微。

こんなところである。

もっとも当の銀行あるいは「ウォールストリート」とくくられる業界ならびにその利益団体がいわゆる「回転ドア」を通って業界と規制当局内部を出たり入ったりしているうちは有効な規制のおこなわれようはずもない。

 

GPIF 世界最大の機関投資家

GPIF 世界最大の機関投資家

 

少し間があいて48冊目に手をつけたのが「GPIF 世界最大の機関投資家」(小幡績東洋経済新報社kindle)。

著者は年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用委員を務めた経験をもつ、いわば年金運用のインサイダー。

アメリカの公的年金ですら株式での運用はおこなわないというなか、政府主導で国内株式による運用比率を引き上げることになったGPIFのガバナンスにおける重大な問題点を指摘し、国民から託された貴重な年金原資の運用についての私案を世に問う。

 

僕ぐらいの世代は「国民年金は賦課方式」と学校で教えられている。

どういうことかと云うとこれは積み立て方式ではありませんということであって、いま我々が払った年金保険料はいつか自分たちに還ってくるのではなく、そのままいまの受給世代(つまり年寄り)へ行くのだ。

じゃあ自分たちが歳をとったときに支給される年金はどこからくるのかといえば、そのとき働いて保険料を納めているはずの若い世代が負担してくれるというのが賦課方式。

でもこれは働く世代の人口に対して働かない世代の割合が増えてくると維持するのが厳しいよねというのが誰にでも理解できる問題点のそのイチ。

だがこの「賦課方式」というも実はそもそもおかしな話であって、本当に年金が賦課方式なら130兆円もの積立金はなぜ生まれたのかという疑問が浮かびはしないか。

年金が右から左へ(つまり若年世代から高齢世代へ)再分配されるものなら運用機関としてのGPIFはハナから不要だ。

そう、この国民年金という制度、生まれたときは歴然たる積み立て方式だったのである。

それが「このままじゃ予定されてた利回りを実現できなくね?」ということになって「修正積み立て方式」とかいう制度へ変更され、やがて完全に「賦課方式」だと云われるようになった。

今度はその賦課方式がもうもたないということになっているのだから、この場当たり的なご都合主義であるばかりか先を見通す力もない連中の云うことを、僕はまったく信用する気がない。

著者は真摯な、印象としてかなりまともな論者なので日本の年金制度が抱える根源的な問題はGPIFのガバナンスにあるとしてこの自律性を高めたうえ、国民が自分たちの年金をどのように位置付けるか、運用機関であるGPIFに何を求めるのかを議論のなかではっきりさせていかなければならないという正論を丁寧に説く。

「リスクはなるべく少なく、利回りはなるべく多く」という意地汚い田舎の地主みたいな根性は捨てて、これからの日本国民にとって年金とは何なのか、その運用にはどんな基本姿勢を求めるのかを国民的議論によってはっきりさせること、そのうえでそれをGPIFにしっかり託すことが必要だというのである。

他方現在のところはご存じの通り「これ以外、ほかに道はありません!」と多分にお節介なことを云う政府によってGPIFは運用ポートフォリオに占める国債の割合を減らし、これを日本株へシフトさせたところである。

世界中の市場へ時価総額に応じた分散投資をするのが「最適」だということが常識になっている現在、世界の時価総額の8%にしか過ぎない日本の株式市場へ総資産の25%を投じるのがいかに無謀なことかは個人投資家レベルにも明らかだ。

これが仮に株価を下支えして現政権による景気回復を演出するための施策だとしたら、こんなに横暴なことはないという筆者の憤りから出た書であることは間違いがないが、それをあまり表に出さないところも非常に紳士的で好感が持てる。

 

以下、私見。

国民年金はもっと早くに保険料として徴収するのではなく税金の一部として強制的に徴収する方式へ変更するべきであり、政府はマイナンバーの導入によってこうした問題も一気に解決しようとしているようだがとき既に遅し。

その他の社会保障国債費ですでに税収はどうあがいても不足するので年金の不足分へ回す予算などひねり出せようはずもない。またマイナンバーを導入したところで官僚組織や行政機関はまさに彼ら自身の怠慢と縄張り意識・利権欲によって省庁・役所間の連携を遅らせ、抜け穴を防ぐことはかなわないと予想される。

いずれにせよ日本の財政が破綻すれば国民年金はあっけなく清算されることになるだろう。

そのときも清算は「年金がなければ今すぐ死ぬしかない」と訴える受給世代に対して手厚く返還し、30代から40代の「若年世代」には雀の涙ほども戻ってこないというのが考え得る限り妥当なシナリオだといえる。

ここからは自分の力で生き延びろ、というわけだ。

なるべく「自分の力」を伸ばさずに社会の一員としておとなしく暮らすよう導かれてきた国民がある日突然これを云われるのだからひどい話というほかない。

 

沈みゆく大国アメリカ (集英社新書)

沈みゆく大国アメリカ (集英社新書)

 

52冊目となったのは「沈みゆく大国アメリカ」(堤未果集英社kindle)。

膨張する大企業・業界にからめとられた政府が自由と正義の国・アメリカを解体していく様を告発し続ける筆者。

何度も何度も同じような本やコラムばかり書くんじゃねぇ!と少なからず不快に思っていたのだが、アメリカに暮らすようになると胸中にわきあがるのは「なんやねん、この国?」という激しい戸惑いである。

答えを求めて何冊かまとめて手にとってみたところ、本書の冒頭に紹介されている筆者の原体験ともいうべきエピソードを読んで彼女の使命感についてはあっさり納得してしまった。是非これからも頑張っていただきたい。

 

なお本書「沈みゆく大国アメリカ」はアメリカの格差拡大と、その結果ほとんどの国民が貧困層となって大資本に支配される民主主義の(実質的な)終わりをレポートし続ける筆者の最新刊であり、告発されるのは「オバマケア」を歪めて国民を搾取するあらたなパイプを確立した製薬会社の目論み、その現状である。

日本人は非常に優れた皆保険制度の恩恵に浴しており、それを当然のことと受けとめている(もっとも市町村国保はもちろん赤字財政にあえいでいるのだが、被保険者をはじめ日本国民は例によってそうした問題に関心がない)。

限られた先端治療をのぞき、医者にかかって目の飛び出るような請求を受けた経験がある人などこの国にはほとんどいないのだ。

だが何度も繰り返すがロサンゼルス出張中にインフルエンザを発症し、現地で医者にかかって数時間の日帰り診療を受けた僕の保険会社が払った医療費はまさかの2,000USD超。

日本の健康保険が3割負担だといっても、2,000USDに対する本人負担額を仮に計算したところで700USD弱(1USD = 120JPYで80,000円ぐらい)を窓口で請求されるレベルだから、日本ではこれはあり得ない。アメリカという国は国民皆保険が存在しないだけでなく、そもそも医療費が高すぎて、皆保険制度を敷くためには健康で医者にかからない人からも高額の保険料を徴収しないと帳尻があわないというわけだ。

 

経済学的にいえば、これはジョゼフ・スティグリッツの看破した「逆選択」の問題であって、このとき原理的に保険会社はどんどん収支悪化に追い込まれるか、あるいは被保険者の減少によって保険料がますます釣り上がり、要するに国民皆保険制度は成立しようがない。

アメリカにおける皆保険制度導入は最初からこういう困難な問題を抱えていたわけだが、さらにオバマは製薬業界に対して「薬価交渉権」を放棄するという致命的な譲歩を行い、医療費抑制を実現するための貴重な手段を失った。

結果、現在のアメリカ国民が苦しんでいる現象とは、

  • 安価な保険料で軽度の保障をしてくれた従来の保険が禁止され、なくなった。
  • 人によっては不要な保障までついた高額な保険へ切り換えなければ無保険になってしまうことも多い。
  • 処方薬の代金が保障の範囲から外れていることも多く、致命的な病気に対して月額数千ドルという法外な料金を支払って薬を買わなければならないことも。
  • そのため自己破産するなどして、低所得者向けの保険制度「メディケイド」対象者となって生き延びようとする難病患者も存在する。
  • なお無保険者には法により年々増額されるペナルティが課される。

といった悲惨なものであり、なお

  • 製薬会社の株価はうなぎ登り

ということである。

 

政策決定のメカニズムとしてはリーマンショックとその余波がおさまるぐらいまでの間はウォールストリートの得意技であった「回転ドア」を用いて製薬業界やそのロビー団体から政権内部へ入りオバマケア関連法案の策定や制度設計に携わった人物が多数おり、見事に業界の利益を実現した現在はまさにその業界内部で好待遇を得ているという次第。

庶民に住宅を与えるという名目で投資家から資金を集め、最終的に借り手は自己破産へ追いこみ、投資家に巨額の損失を出させた大手金融機関が自分たちは公的資金の投入により生きながらえ、経営者は巨万の富を得てパラシュートにて脱出という一幕が演じられた過程で拡大した所得の格差、機会の格差はますます大きくなる一方、今度は国民の健康・生命をテーマに搾取を働く大資本があからさまに民主主義の本尊であるアメリカ社会をねじ曲げ、国家を解体しようとしている様に対する筆者の危機感は強い。

日本の財政が破綻したあと、IMFをはじめとする国際機関から支援と引き替えに押しつけられる「構造改革プログラム」には、国民健康保険制度の見直しが必ずや含まれるだろう。

その目的は財政健全化などでは決してなく、欧米各国政府を資金面でバックアップする医療・製薬業界の利益を実現することにあるのだということを忘れてはいけない。

第二次世界大戦後、あまりにも理想的な憲法を掲げて再出発した日本が切望した平和主義・民主化路線は、やがて反共を旨とするアメリカの思惑により大きくねじ曲げられ「逆コース」をたどる。巣鴨プリズンに収監されていた岸信介がついに総理大臣の座を得て日米安保条約の批准を果たしたのはその極みである。

そういった意味でも、財政破綻により「もう一度戦後からやり直す」日本が本当の意味で独立国家たるために国民はどうあるべきか、遅まきながら議論をすべきときである。

.....中央情報局CIA)から資金提供を受けていたとされる。2007年に米国務省が日本を反共の砦とするべく岸信介内閣池田勇人内閣および旧社会党右派を通じ、秘密資金を提供し秘密工作を行い日本政界に対し内政干渉していたことを公式に認めている

岸信介 - Wikipedia