新宿メロドラマ

安っぽいヒューマニズムは要らない。高いのを持ってこい。

プロテロリストとアマチュアプロテスト、2015年春の陣。

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教会の鐘がコプリー・スクエアに鳴り響き、立ち止まった人々が頭を垂れる姿がCNNに映し出されたとき、私は300m離れたスポーツクラブで無限軌道のうえを時速6マイルで移動中だった。

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4月15日はボストン・マラソンのスタート・ゴール地点に近いボイルストン通りの脇で手製の爆弾2発が爆発し、多くの人々が死傷したテロ事件から2年の追悼記念日であった。

なお犯人は移民の兄弟で、兄は逮捕劇のさなかに警察による銃撃で死亡しているが弟の裁判はいまもボストンで継続中だ。

アルカイダによるジハードが組織的なものからネットワーク様の、つまり明確な指示系統をもたないながら理想や主張に共感した者が単独・自発的に行うテロへと変容してきた(ホーム・グロウン・テロリスト)ことはすでにあちこちで指摘されているが、ボストン・マラソンにおける爆弾テロ事件はまさにその典型として世界中に衝撃を与えた。

カリフ制の復活を宣言して世界中のイスラム教徒にイスラム共同体への回帰とジハードへの参加を呼びかけるISISに共鳴し、あるいはISISに直接参加した各国の若者が帰国して、こうしたテロを起こすであろうことは現在ほぼ自明のことと考えられている。

その一方、イスラム教徒やイスラム社会全体をそのように危険視することは宗教差別に他ならず、妥当でも正当でもないことから断じて避けなければならない。

ただでさえイスラム教徒の移民を多数迎え入れているフランスやドイツ、イギリスの社会が抱えるこの緊張感は移民一般に対する警戒心の高まりともあいまって、いまだ日本人の感覚からはほど遠い。

 

CNNより。

「弟はアニキに洗脳されてたって主張してるけど、ジハードを志したってことはむしろ先に死んで天国に行ったアニキに憧れる気持ちがあったりするんじゃないの?」

「そんなことないよ、ほんとに死にたかったら弁護士付けてないでしょ」

そんなこと云ってもマサチューセッツ州ではすでに死刑は廃止されている。

 

90年代に南方のチェチェン共和国が送り込むテロリストを相手に死闘を繰り広げていたロシアを西側諸国は冷たい眼で見つめていたわけだが、「交渉不能の敵」と戦うことの困難さを知った自由主義諸国に対し、プーチンはいま何を思うのだろうか。

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一方、ドイツ・フランクフルトではECBのドラギ総裁が会議のあとの会見中に襲撃される。

犯人は抗議団体のメンバーで「ECBによる独裁」に異議を唱えたものとされるが、拘束後、まもなく釈放。

主張したかったのはギリシャなどに対して緊縮財政を要請するのはECBによる「独裁」だということのようで、つまり財政主権に対する侵害だとか、一部のEU市民の生活を脅かす非人道的な措置だとかいうことなのだろうが、だったらECBよりはドイツのメルケル首相とかIMFのラガルド専務理事に云った方がまだよさそうだというところ、やはり老獪な女性を相手にするには本人もまだ小娘に過ぎず、おっちゃんに噛みつくぐらいがとこだったということなのだろう。

QEは予想通りまったく効いていないようだが、マリオ・ドラギはよくやっている。

デンマーク投資銀行グループ・サクソバンクは「2015年のリスクトップ10」第4位にドラギ総裁の辞任を挙げている(週刊ダイヤモンド2015/4/11/P.65)ぐらいだから、あんまりビビらせたりしてはいけないのだ。

 

それはさておきこの明るいプロテスト、というかビラを撒いただけだからまだいいようなもののドラギが少しでもケガをしていればテロリスト扱いになって臭い飯というところだろうが、当局もよく知っている相手だったのだろう、すぐに釈放されるあたりがまことにキッチュでよい。

私はすぐにFacebook

ECBのマリオ・ドラギ総裁が会見中、プロテスターによって「襲撃」を受ける。
動画を見るとドラギ総裁のビビり方が女子っぽいのと、ガードがおっぱいに手を回して連れて行くところが気になります。

と書いたが、しばらくすると本人が軽快にTwitterへ登場。

「いいケツだな」「Tバックじゃね?」と話題にされたことを嬉々として共有している。

案の定、バカで明るいプロテストといった風情だ。

フォロワー3,288人というのも小物だが頑張り屋さんという感じがして、なんというか「バイトは何してるんですか?」とメンションを飛ばしてみたくなったりするぐらいだ。

ディストピア映画なら、ひょんなことから底辺の世界へ叩き込まれた主人公を冒頭のピンチから救い出し仲間の待つアジトへ連れて行ったことからクライマックスの直前に主人公とセックスするかしないかというレベルのキャラ立ちといえよう。

 

ところでTバックといえば、半端ではない尻すぼみ感のなかで完結したドラマ「ハウス・オブ・カード」の第一話で新聞記者の女の子がドレス姿を写真部に撮影され、「取材対象に真面目に取り合ってもらいたければTバックはやめろ」という無遠慮なメールを受け取る(だがそれをきっかけに彼女は出世のきっかけをつかむ)。

しかしそれにつけてもECBの本店で行われた(とおぼしき)この記者会見、警備どうなっとんねんと思わざるを得ないが、それをいえばドローン元年とも云うべき今年にしてワシントンD.Cの防空体制がガバガバなんではないかと思わせる事件が相次いでいる。

郵政公社の配達員が議員に宛てた大量の手紙を持って小型機で議事堂へ特攻。

写真をよく見ると、小型機(ジャイロコプター)の後部にちゃんと郵政公社のロゴ入りボックスが設置されているのがわかり、非常に微笑ましい。

ヒューズ容疑者はただ、選挙資金法の改革を促したかっただけだと話している。 

見事に成功したといえる。

 

北半球に春が訪れている。