新宿メロドラマ

安っぽいヒューマニズムは要らない。高いのを持ってこい。

12匹の怒れる男。

消灯して12時間後の朝8:00に起きて朝食を摂り、また寝た。


目を覚ますと昼を回っていた。座卓にあった茶菓子を食ってポット一杯の水を飲み、また寝た。

起きると夕方になっていた。

まだ寝られる自信があったが、このままだと金沢へきたことばかりでなく温泉にきたことの意味すら失われると思い、浴衣を羽織って部屋を出る。

大浴場では大学の同窓生とおぼしき12匹のおっさん達と一緒になった。

私ももうしばらくしたら「匹」で数えられるようになるのだろうか。悲しい。

そしてこのおっさん達もまた粗暴であった。

ただ声が大きいというだけでなく、彼らは常に怒っている。

曰く、彼らが在学当時の寮に医学部の学生が入れたはずがないという。


「そんなお前、医者の息子が寮に入れるはずなんかないだろう!」

「医者だなんだって関係ないんだよ!国立なんだから!私学じゃないんだから!」

「だけど医者なんてカネ持ってるんだから寮に入れんのはおかしいだろう!」

「だから所得を調べて入れるんだよ!」

「そうだろう!だから所得を調べんだろ!」


なぜ怒る必要があるのだろう。

初老をとうに過ぎて同窓会に参加しているのだから互いに憎かろうはずがないが、しかし彼らの間における意見交換のプロトコルは激しい怒号によって規定されているように見えた。

この12匹が私の陪審員だったら、私は泣く。


彼らのどんちゃん騒ぎは深夜まで続いた。

昼間寝過ぎたために寝付かれず、ロビーの明かりで本を読んでいた私に1匹のおっさんが近づいてそっとささやいた。

「うるさくして、すまんな」

わかっているなら静かにしろ。

だがあの12匹が私の陪審員だったらと思うとあまり強いことも云えず私は泣き寝入りした。