新宿メロドラマ

安っぽいヒューマニズムは要らない。高いのを持ってこい。

俺らの人生、プライスあり。

足利事件の「被害者」と化した元服役囚の菅谷さんに栃木県警の本部長が謝罪。

バシャバシャとフラッシュの焚かれるなかで外連味たっぷりの言葉を口にした本部長を菅谷さんは赦す。


国家賠償の請求が始まる。

それがいかほどの額をめぐって争われる訴えなのか、法律に明るくない僕には想像もつかない。

何がしたいかと問われて照れくさそうに、結婚なんてしてみたいと洩らしたこの人の「幸せ」も、とうに僕の想像の彼方にある。


「I本さんだったら、いくらだったら赦します?」

「何がですか」

「17年」

足利事件ですか」

「そう」

「10億・・・・・」

「あ、同感」


この二人には欠けているものがふたつある。

ひとつは想像力。

もうひとつは想像力の欠如を恥じる気持だ。

そのくせものに値段をつけることにだけは律儀な感覚をもっている。

彼らの人生を「プライスレス」と呼ぶことはできまい。まして10億もの大金で買い取る値打ちもない。