新宿メロドラマ

安っぽいヒューマニズムは要らない。高いのを持ってこい。

テーラーを許す。

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」をバルト9にてふたたび観劇す。

終わると前の席にいた青年がとなりの友人に「云いたいことはたくさんあるけど、まずは出よう。云いたいことはたくさんあるけど」と興奮気味に繰り返す。

いまごろ初めて観にきているお前にこそ、俺は云いたいことがたくさんある。

*  *  *  *  *

熊本市街は上通りを抜けてしばらく行ったところに小さなショーウィンドウがあり、そこに綺麗なスーツが1着飾られていた。

ふらりと入った私は店主を呼び、表のスーツが気に入ったので試してみたいのだが、と願った。

店主の返事は「ご予算は?」とこう、ひどく無礼なものであった。

カネのない客には試されたくもないというのであればそう云えばよい。

であればそもそもこの店は客を選ぶということであるし、それは即ち、カネのない客は客ではないということである。

つまり「お互い立場は忘れて生身の人間同士として話しましょう」という意思表明、言い換えればケンカを売られたのだととった私は、しかし礼儀正しい笑みを浮かべながら「いえ、予算は特に考えていませんが」と返す。

プリティ・ウーマン」のジュリア・ロバーツプレタポルテで邪険に扱われる様を思い出していた。

「一度試してから考えたいので」。

店主はリスのような頭をコクリとして云った。

「あちらの商品、40万円ほどになります」。

関西に育った人間はこういうときにぴったりの言葉を知っている。


「今日はこのへんで許しといたるわ」。


「新宿メロドラマ。」を休載しているあいだ、何をしていたかと云えば熊本へ行ったり「亡国予算」を読んだり、禁酒で眠れぬ夜を悶々として過ごしたりしていた。

「亡国予算」のレビューは近々やろうと思う。熊本では結局高菜ラーメンしか買わなかった。いまも夜は寝られない。