新宿メロドラマ

安っぽいヒューマニズムは要らない。高いのを持ってこい。

亡国たすけあい運動。

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NHKが年末に行う恒例の「たすけあい」運動に全盲のピアニスト・辻井伸行が参加していた。

「お前はたすけてもらえよ」と思わずテレビの前で声をあげるような僕について、非常に強く批難するタイプの方々がいらっしゃるが、こういうのはおそらく一生治らないだろう。


官僚亡国」はその売り文句が、霞ヶ関官僚と太平洋戦争における軍部官僚とに通底する本質をあぶり出し、我が国の「官僚組織」そのものの問題点に警鐘を鳴らすというものであったから、これはいかんと思って買い求めたのであったが、実際にはいままで各誌に掲載された著者の論文をとりまとめた論集で、半分以上が現在の皇室をめぐるものであったから、これにはひどくがっかりであった。


もっとも、皇太子が「新しい皇室のありかた」を模索すべしと述べて大騒ぎになった記者会見から数年を経てなお、その新しい皇室のありかたについての皇太子の考えがまったく明らかにされずにいる現況について、「皇室や天皇のありかたは突然考えつくものではなく、先代のありかたと葛藤し、またそれを反省しながら時間をかけて作り上げられるものであって、そのプロセスに不可欠な相談役が現在の皇太子にはいないということこそが、国民が向き合うべき大問題」だという著者の考えは興味深く、思いがけず勉強になったことである。


また、太平洋戦争の反省について、この国は戦争が政治のひとつの手段であり、その側面に過ぎないということをうまく理解できないものだから、自分で始めた戦争の落としどころを探ることもできず、挙げ句は本土決戦で玉砕しようなどと本末転倒なことを思いつくのであって、国民性が本質的に「軍事」には向かないのだということをよくわかって軍備には非常に慎重になった方がよいという論も、特に聞き取りを中心とした史実の検証をフィールドとする著者ならではの説得力を備え、だからこそ「平和勢力」としての天皇の現代的な存在価値がそこにあるというやや飛躍した主張も何となく聞けてしまう。


官僚にまつわる問題に対し、常に敏感でいる理由について本稿では特に触れないが、このような深い洞察を含む本書でありながら、現代の「官僚問題」についての指摘・考察・提言にはとぼしく、失望した。

だが戦争と天皇を縦糸に昭和史の検証を進める著者が、「結局、日本人てのもやっぱり変わらんわけですよ」と云っていることだけはよくわかり、ということはここで云う「官僚」というのは日本人の国民性が生み出す職能であり、組織であり、害悪なのであり、ゆえにそれは霞ヶ関に限らずこの島の津々浦々に存在するに違いないと納得したのであった。