カフェ ラ・ボエムがたまらない。
何がたまらないと云って、知らないうちに随分店舗が増えたように思うのにメニューはまったく変わらないという泰然とした様子がたまらない。
どの店に行ってもだいたい同じようなクオリティのものが食えるという安心感と、多少抜けているところはあるが「ホスピタリティ」にこだわる接客もまた、たまらない。
グローバルダイニングが全店舗全面禁煙に乗り出して、系列の権八がうるさいだけで飯の遅いクソみたいな居酒屋に転落したのに比べ、「ボエム」はいまも私の大事な飯どころである。
中国により尖閣諸島の主権が侵され、ロシアにより北方領土の領有があらためて示された。
国民はあらためて「日米基軸」の外交について思いを深め、新たな防衛大綱が発表された。
そんなとき、僕は退職した元自衛官二名とカネの話をしていた。
GREEやDeNAが未成年の売春問題を突きつけられ、「無料」の広告が不当であるとの申し入れを受けた。
ペニーオークションのサイトは昨年末から相次いで閉鎖に追い込まれ、バードカフェの「おせち問題」で一斉に疑惑の目を向けられるようになったグルーポン系サービスがボコ叩きに遭っている。
どうやら「IT産業」には、消費者の欲望が高度に発達した世界で、商品やサービスではなく産業それ自体が消費されているような趣がある。
いったいいつまで我々はこの不毛なIT砂漠に水を撒くような作業を続けなければならないのか。
「早くインターネット終わらねぇかな・・・・」
これが最近の、私の口癖である。
「ウェブの仕事をしている人は、楽して稼ごうとするからダメなんですよ」
ボエムのランチは「スープセット」のスープをドリンクバーまで取りに行かなければならないという不当なシステム。
珍しく僕のためにこのスープを運ぶ労を執った男がつぶやいた。
「手と足使って必死にやったら普通にうまくいくビジネスがインターネット上にはまだまだいっぱいあるはずなんですけどね」
この男はすでにITの人ではないが、それでも足を使いすぎてJALマイレージバンクのダイヤモンドステータスを手に入れたことを僕は知っている。
飯の食い方は汚くても、その情熱は高い賞賛に値するだろう。
彼の会社がその費用を負担できたことも含めて。
僕は労せず手にしたコーンスープをすすりながら考える。
「インターネットビジネスが濡れ手に粟だって云ってる奴らはその実情を知らない」などと愚痴を垂れながら、夏でも厚着してサーバを監視(目視で)していたのも今は昔、頭のどこかで我々は、「もうちょっと楽に稼げないか」と、どんな世界でも負け犬が必ず考えることを考え始めている。
「その通り・・・ネット関連で働いてる奴らも、もっとまじめにやりゃいいんだよな・・・」
他人事のように、私は応じた。
でも頭のなかには「早くインターネット終わらねぇかな・・・」というフレーズが浮かび続けており、一方で元自衛官二名はパスタがきても、まだカネの話を繰り返していた。