ある人が " Stay foolish, " なんて云ったという話。
頭のいい人にしか云えないことなので嫌みだね、と気づけないタイプを炙りだしてくれるので助かっている。
ところでボストンではやたら "Bean Town" という言葉を目にするので調べてみると、これがボストンの別称だということだが地元の人は総じてお気に召さないご様子。
"I love bean town!"
"You fuckin' retahded tourist. It's Boston. Not Beantown."
「Bean Townは最高だぜ!」
「おまえ土地のもんやないな、このバカたれ!ボストンじゃ!ビーンタウンちゃうわ!」
日本ならさしずめ「うどん県」といったところか。
云うまでもなく大学をはじめ世界的に有名な教育・研究機関があつまるマチャシューチェッチュ州・ボストンである。
ダウンタウンを少し離れるとそこはもう世界各国から集まってきた若者たちが一生懸命頭の悪いフリをして歩き回っている。
頭の悪い「フリ」というのは何かというと、通りをバカにはしゃぎながら歩いて行くような連中をよく見るわりに、彼らは夜な夜なスポーツバーで怪気炎をあげたりしないからである。
ちゃんと若者らしく振る舞うことも忘れてはいないが、本質的には莫大な借金を背負って標準以上のキャリアをゆくよう運命づけられた使命感に充ち満ちて、彼らは生きている。
" Boston Husbands' Daycare Center "(ボストンの父ちゃん向けデイケアセンター)と自称するパブの看板が自棄になって呼びかけている。
" University is important.
But Whiskey is More Gooder!!!!! "
「大学は大事。
けどウイスキーは一億万倍大事だぜ!!」
住民の知能指数平均がいくらであろうと市井に生きるバーテンダーの学歴が立派なわけではない。
開き直ったフレーズは、むしろ粋である。
こんなのもあった。
Are you hungry?
We will feed you!
Are you thirsty?
We will get you drinks!
Are you feeling lonely?
We will get you drinks!
翻訳は、よす。
そこには無害な反知性主義が、無害なままむき出しになっている。
無害だと信じている。
ボストンへきて、早くも1ヶ月になんなんとしている。
頭のよさそうな街に溢れる皮肉な惹句の数々にかかわらず、酒をほとんど飲んでいない。
新大陸へ流れてきた清教徒たちが築いたこの街は、なんだかんだ云って風紀の乱れには敏感だという。
老若男女を問わず道を行けば歩きタバコしているのに行き交うし、飲み屋の類は右の通りである。
だが街に酒屋はほとんど見当たらず、食料品屋の地下室にひっそり設けられた酒類売場も日曜は午後になるまで開かない。
なにか不便でなんとなく酒が飲めないでいるうちに思い出した。
どうにも身体がいうことを利かず、思い切って断酒、「新宿メロドラマ」というブログを始めたあの頃以来、概ね5年ぶりに私はシラフである。