本年41冊目は「日銀出口なし」。
日銀、「出口」なし! 異次元緩和の次に来る危機 (朝日新書)
- 作者: 加藤出
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2014/07/11
- メディア: 新書
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時間が止まったようなホテルで、出ようと思っても出られない。
「一度出るともう二度とは戻れません」と引き留められてとどまり続ける、時代に取り残されたひとびとの姿を歌う「ホテル・カリフォルニア」。
サブプライムローン問題の顕在化からリーマンショックを経て大恐慌のトバ口に立った経済を救うため大規模な金融緩和に乗り出した各国の中央銀行は「ホテル・カリフォルニア化」しているのではないかと指摘される。
- アーティスト: イーグルス
- 出版社/メーカー: ワーナーミュージック・ジャパン
- 発売日: 2005/12/21
- メディア: CD
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簡単にいえば80年代にバブルを引き起こした金融緩和を引き締めるため、日銀が公定歩合の引き上げを行ったらバブルが弾けた90年代。以降いまだに立ち直らない日本経済をみるにつけ、金融緩和政策を終えるのは難しいよねとこういう話。
ながきにわたり日本のバブル形成、崩壊とながびくデフレを嘲笑してきた欧米各国だが、21世紀初頭にはほぼ同じ道をたどることになった。現在のところ日・米・欧は金融緩和の出口を模索する米国→大規模な量的質的金融緩和を継続中の日本→いまからさらに大規模な量的緩和を行うと表明しているEUという順番で並んでいることになるが、みな最後には出口にたちはだかる壁を乗り越えて正常化への道をいかねばならぬという点では同じである。
切れるだけのカードを最大限に切った各国中銀は次なるリセッション(景気後退)を迎えた際に有効な対策を打てるようカードを手元へ回収しておかなければならない。そのまえに危機が訪れれば世界経済は、いままで中央銀行が果たしてきた役割が果たされないなか丸裸で混乱に突き落とされることになるだろう。
しかし2000年代半ば以降に各国・地域で展開されてきた(あるいはこれから繰り出そうという)金融緩和策には市場からの有価証券買入を含む大規模な量的緩和やゼロ/マイナス金利導入などといった非伝統的政策が織り込まれており状況はなお複雑である。
いまや日銀とFRBが大量に保有する日本国債/米国債については異常な債券高(金利低下)を通じて経済を刺激し続けている(はずだ)が、米国ではこの国債買入終了の時期を迎えただけで株価から実に過去1年の上昇分が吹き飛んだ。
これでは簡単に保有する国債を売却するわけにはいかない。さりとてFRBは30年債、50年債といった年限のきわめて長い米国債を抱えており、償還による自然減を待っていては次なる景気後退の波にはとうてい間に合わない。
日銀も当然同じ問題を抱えているが、アベノミクスの成果もまだはっきりしないなかで出口政策について議論することはそれ自体が緩和策の効果を打ち消してしまうため、いまは行け行けドンドンでやっていくしかない。
だが市場から買い入れたETFなどの有価証券にいたっては償還による自然減がありえないのでいつか必ず市場で売却しなければならなくなる。
市場がこの売りを吸収できるほどにまで足腰のしっかりした成長をアベノミクスは呼び起こすことができるのかといえば、今のところ可能性はあまり高くない。現在までのところ、アベノミクスはカネをばらまき、呼び込むのには成功したもののこれが社会のなかで循環し、経済を成長させていく仕組みの整備がお留守になっているからである。
結局のところ景気回復は規制緩和とイノベーション(新規事業・分野の発展)によって果たされるべきであって金融政策はその呼び水に過ぎないのだが往々にして政治は金融緩和のモルヒネ効果に安住しがちである。
安倍総理もここまで「第三の矢」(規制緩和)を放とうと農協改革や女性の社会進出、外国人訪問者の誘致などを打ち出しているものの、三年近い在任期間中の成果としてマーケットから評価されるにはあまりに少なすぎるし、いずれも道半ばといわざるをえない。
いずれかの段階で「アベノミクスに第三の矢なし」と判断されてしまえば、日銀の「異次元金融緩和」は完全に出口を失う。
これは日銀の信用力を低下させると同時に、日銀が買い支えている日本国債の暴落と長期金利の上昇、つまりは日本の財政破綻へと続くシナリオになりうる。
こういった意味で、好むと好まざるとにかかわらず安倍政権と日本国民は一蓮托生だということは認めなければならないだろう。
株価ばかりが注目されがちなアベノミクスとその効果だが、実際には息の長い成長をもたらす幅広い、本質的な規制緩和へ日本は踏み切れるのかどうかが世界から注目されている。
この失敗は過去20年間とは比べものにならない悲惨な状況を国民のうえにもたらすだろう。
賽は投げられた。
いつかは解決しなければならない問題だったとはいえ、一度手をつけたからにはやりきる以外にない。
日本の将来を決定づける数年間を委ねられた安倍総理に注目し、声をあげ続けなければならない。