「成功した理由を尋ねられて『幸運だったから』と答える者は誠実だ。
他方、失敗した理由を尋ねられて『不運だったから』と答える者は愚か者である」
(俺、2010年)
または換言すると「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」(野村克也)ということだ。
僕は死んだらこれを墓碑銘にして欲しいと思っている。
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僕が人類史上で一番好きな爆裂案件、アメリカのゲームメーカー・アタリによる「E.T.」の失敗。
見つかったのは、映画「E.T.」をゲーム化した1982年発売の「E.T. the Extra-Terrestrial」で、史上最悪のタイトルといわれている。
アタリが開発を急がせたため、完成度が低くなり、商業的に大失敗。「アタリ・ショック」と呼ばれる市場崩壊の引き金となった。アタリは500万本の在庫の大半を抱え込むことになったとされ、ゲームは夜のうちに砂漠へ埋められたという。
市場崩壊の引き金とか、砂漠へ埋めるとか、あと企画自体が「E.T.」っていう安直の極みみたいなところとか、すべてがヤバすぎる。
やっぱり500万本の在庫を砂漠へ埋めようっていう発想をする奴がこういう失敗をするんだなと思うと感慨深いし、実際それが埋まりきるアメリカの砂漠もほんとヤバい。
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帯に「ウォーレン・バフェットからビル・ゲイツに渡され、」とあった時点で「あ、この広報担当者もうこれ以上なにもやる気ないな(察し」とわかる「最高のビジネス書」、「人と企業はどこで間違えるのか?成功と失敗の本質を探る『10の物語』」を読んだ。
私は従来ビジネス書や自己啓発本の類をまったく読まなかったのだが、バークシャー・ハサウェイの後継者候補2名のなかに入っていないことを知ったあの日から、バフェットの薦めるものだけは読もうと決めたのだ。
世には三十歳を過ぎてもドラフトの日には緊張の面持ちで出社する元球児(ただし野球部は中途退部)もいれば、内閣改造があると一張羅を着てなるべく予定を入れずに電波の届くところにいる私みたいのもいる。
だって生きてるんだもの、まだワンチャンあるで。
一度はバークシャー・ハサウェイの後継者に指名された2人も、2人だというところがミソだ。
これから先、足を引っ張り合ったあげくに共倒れということもありうる。
というかそれこそがあるべき帝国の後継者争いではあるまいか。
<全期間の収益率 1965年~2012年>
●バークシャー 586,817%(約5868倍)
○S&P500(配当込み) 7,433%(約74倍)
約50年でなんと5,868倍のパフォーマンス!
1965年に投じた100万円が58億円になるわけだから、ダースベーダーも寝返るレベルと云ってよい。
人と企業はどこで間違えるのか?---成功と失敗の本質を探る「10の物語」
- 作者: ジョン・ブルックス,須川綾子
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2014/12/19
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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で、バフェットがビル・ゲイツに贈ったという聞くだけで胸が悪くなるほど意識の高いエピソードをまとったこの本だが実は面白かった。
データを追いかけたり理論化を目論む研究書ではなくビジネス史家の手になる読み物として編まれており、語り口にもユーモアが効いていて痛快。
フォード、ゼロックス、ニューヨーク証券取引所といった我々にも馴染みの深い(ニューヨーク証券取引所は別になじみ深くないが)企業から、中西部のスーパーマーケットチェーンや米政府機関を退職して起業したある人物に至るまで、多彩な主体とストーリーから選ばれた10編のテクストが読者の想像力を刺激してくれることだろう。
ハウツー本を読んでいるというよりは、温厚な老教授の講義を聴いているような気持ちにさせられるところがよい。
もっとも邦題はやや悪質で、原題は「Business Adventure」だから、 むしろ「ビジネスには成功も失敗もあるのが当然だけど、いずれにせよビジネスマンが経営というAdventureをやって幸せでいるためには何が必要なんだと思う?」ということを問いかけてくる書という表現が正しいだろう。
根性、良心、反骨精神、探究心、自制心、ユーモア、誠実さ・・・・そのどれをも否定しないオープンなクエスチョンとして本一冊が成立しているあたりに欧米の教養教育の懐深さを感じるし、そうか、これは経営者にとっての教養の書なんだと気付かされるのだ。
どうやらアメリカのMBAコースっていうのはこういうことを教えるらしく、つまり失敗なんかしてもやり直しが利くんだから、成功する方法なんか学ぶ必要ないよ、君たちが何をやりたくて、何者になりたいのかを発見しようよみたいな話なんだということを他の本で読んだことがある。
来世で僕はハーバード・ビジネススクールへ行ってバークシャー・ハサウェイの(以下略
本書で紹介されるインシデントは「新製品の失敗」「業界団体による消費者の救済」「政府機関から民間企業への転身」「仕手筋への対抗」「長期にわたる研究投資」などどれも興味深いのだが、自動車メーカー・フォードの新モデル・エドセルの大失敗(1958年 - 1960年)が一番ぶっ飛んでいる。
なにせ代理店獲得からプロモーションにいたるまで巨額を投じた販売戦略が驚くほど巧妙におこなわれたにもかかわらず、極秘に開発が進められた肝心のクルマがひどいクズで、一時代を担うはずだったにもかかわらず年間の採算ライン200,000台に対して生産が終了するまでの3年間に売れたのが実にその半分という大爆発。
「エドセルの失策によって生じたフォード社の損失は、1960年当時でも異常な巨額の3億5,000万ドルに達したとされる」
というのだから言葉を失う。
たまらないのは最高のスタッフィングによって結成されたチームが斬新なデザインのモックアップをフォードの上層部に初めて公開する場面。
「その場に立ち会った人物によると、会場はまる一分は続いたかと思うほど長い沈黙に包まれ、それからいっせいに拍手が涌き起こったという」。
これを聞くだけでもう、ビジネスはやはりAdventureだと、すべての企業はベンチャーなのだと噛みしめざるを得ない。
ビジネスはAdventureなんだという気持ちを忘れずにいきたい。
経営はなによりも、経営者を幸せにするものであるべきだ。
だって従業員は会社を選べるけど経営者は選べないんだから。
カネだって名誉だっていいんだろう。
ただ、そこに嘘やごまかしがあると自分も周りも面白くないのかもしれない。
僕もバークシャー・ハサウェイへ移ったあと(以下略
なおエドセルの開発と販売にかかわったチームのメンバーは、その後もフォード内外で幸せなキャリアを送ったと報告されており、みんなが割と嬉々として当時の失敗について語るところが何ともいえず、よい。