毎晩毎晩酒を飲んでいると、
それだけで何か自分が偉い人間になったような気がする。
ひとには真似できない努力を続けているような気がしてくるのだ。
でも本当は違う。
同じ時間にできるいろんな努力のすべてから逃げて、
今日も酒を飲むことしかしなかったという、それだけが真実なのだ。
ー ゴッホ
Twitterでつぶやいたゴッホの言葉には大きな反響があったが、これは本当は私がつくった。
ゴッホは酒を飲んだかもしれないが、それなりに一生懸命画を描き続けた立派なひとだ。
「ゴッホがいうと重みが違うわー」というコメントもあったが、それはおまえがゴッホを知らないだけです。
数年間にわたり、年間50冊以上の本を読むことを目標と定め、それをクリアしてきた。
その記録も終わる。
2015年は12月11日にして読了43冊。
今年も残りわずかな日々を2日で1冊というハイペースで本ばかり読みながら過ごすつもりは、ない。
だから目標は達成でき、ない。
キミとの約束を、僕は果たせない。だからもう、僕たちは会えない。
今月は東京 - ホーチミンシティとボストンをSkypeで繋いで行われる月に一度の経営会議もまだこれからだし、妻と私自身のため、日に三度の炊事や洗濯に掃除もしなければならない。CNNを観ながら1時間トレッドミルを走る習慣も継続中だし、これでもささやかな社交生活がボストンにはあって、三度にわたる忘年会的な集まりがあったりもする。そのうち一度は自宅に招かれているので「デスパレートな妻たち」の見よう見まねでスコーンでも焼いて持って行かなければならない。
僕は忙しいのだ。
何せ食料品を買おうといったらバスに乗ってスーパーマーケットへ行っているのだ。サザエさんみたいな話だ。
そういう街なんだ、ここは。
しかしだからといってゴミのような新書を読みあさって数字だけ目標をクリアする小役人のような工作をするほど私も落ちぶれてはいない。
落ちぶれはしたが。
え、落ちぶれたん?俺?いつ?何時何分何秒?地球が何回回ったとき〜?
ご覧の通り回答はどれも危なっかしい感じで、ちょっと軽めのドラッグをやった感じを味わえるが、なんといってもベストアンサーがいい。
地球が生まれたのは約46億年前で46億周はしてると思うからそれぐらい
「回る」って、その回るだったんか・・・。
そんなわけで、今年は50冊の目標をクリアできないが、僕は記録を捏造したりはしない。
ゴッホの言葉を捏造はしたが、そういうことは、よくする。
* * * * *
クズが目立つというか、原発事故以来目をそらしようもなくなった日本人のモラルの劣化が、それ自体ニュースとして消費されたのが2014年だった。
こうしたニュースの主役となった人々のなかでも世界的に名を馳せたのが小保方晴子博士(当時)。
STAP現象を確認し、彼女のいうところの「STAP細胞」を造り出したと発表した論文自体が捏造だったことははっきりしたが、果たして彼女がSTAP現象を確認したこと自体が嘘だったと証明するにはどうしたものか。
これはまさしく「悪魔の証明」であって、原理的に不可能である。
だから科学の世界では、研究結果は再現可能でない限り発見とは認めないということになっている。
ところがそこに、こうしたニュース。
僕も小保方さんは非常に興味深い人物だと感じているので、そこに世界的生命科学的大発見の立て役者という箔がつけば面白いとは思う。
だが小保方さんがラボで見たと主張している現象が実際のところ何だったのかにかかわらず、日本の科学界は彼女の捏造論文により深いダメージを負ったのであり、「小保方さんは間違っていなかった!」というなら、「じゃあなんで彼女はあんな嘘ばっかりの論文を書かないといけなかったの?人が死んでんねんで!」とお尋ねしなければならない。
「人が死んでんねんで!」 とは、事故や事件などで被害者が出ている場合に、加害者やその関係者に対してキレ気味に食って掛かる罵倒・罵声のフレーズの一種です。
ちなみにSTAP細胞をめぐる一連の出来事のなかで亡くなった方というのが、もうお忘れかもしれないが少なくとも一人いて、それは小保方さんの上司にあたる人だった笹井芳樹先生だ。
この人は実は発生学において世界的に有名な研究者であって、彼が全面的にバックアップした小保方STAP論文はハナから真正だと多くの研究者が思い込んでしまったのにはそれもある。
しかしだからこそ様々な側面から責任を追及された笹井先生は、いまだ騒動の渦中にあって自ら死を選ぶまでに追い詰められてしまったのだ。
遺書の末尾はこう締めくくられていたという。
「絶対にSTAP細胞を再現してください」...(引用者略)...「実験を成功させ、新しい人生を歩んでください」
「捏造の科学者」(須田桃子/文集e-book)
これを笹井先生が小保方さんにかけた、一生解けない呪いだとするコメントも当時ネットでは見られた。
どっちにせよ、小保方さんは気にしないだろうというのが僕の見方だ。
さて前置きが長くなったが、今年読んだ書籍をふり返り、Amazonアソシエイトのリンクを踏ませようという年末恒例の企画、2015年の23冊目は「捏造の科学者」(須田桃子/文春e-book/kindle)だ。
筆者は毎日新聞の科学担当記者で、かねてより笹井先生からの信頼も厚かった。
その様子は冒頭、「内容がまったく書かれていない奇妙な記者会見の案内が理研から届いた」のを受け、直接メールで問い合わせたのに対して笹井先生が返信したメールからもうかがえる。
「記者発表については、完全に箝口令になっています。
しかし、一つ言えることは、須田さんの場合は『絶対』に来るべきだと思います。」
このような立場から、筆者は自身その後の「STAP論文」をめぐる一連の事件に強い衝撃を受け、おなじように深く傷付き永遠に失われてしまった笹井先生の置かれた状況とはどんなものだったのか、何が分かっていて、何が分からないのか、その何が問題なのかについて、一般の読者にも理解できるよう丁寧に解説していく。
笹井先生の訃報をまとめながらデスクのつぶやく「悔しいね。本当に悔しい。」という言葉の重みが理解できれば、いまさら「STAP細胞は実在した!」などと叫んでみることがいかに無意味かわからいではあるまい。
その次に読んだのが24冊目「論文捏造」(村松秀/中公新書ラクレ/kindle)。
これはもちろん前掲書のなかで、なぜ科学の世界ではこうした捏造事件が起こるのか、その構造的な原因を理解する助けになる本、つまり「STAP騒動」に極めて似通った過去の捏造事件を取り扱った作品として紹介されていたから読んだものだ。
先端科学の殿堂ともいうべき研究所に彗星のように現れた年若い研究者、権威をまとった上司によるバックアップ、再現のためには本人にしか分からない微妙なコツがあるとされたことなど、初めから疑いの目を持ってみれば驚くほど「STAP論文」のおかれた環境に似ているのが、2000年から2002年にわたって世界の科学界を騒がせた「シェーン論文」事件だ。
ただしこちらの場合主役となったヘンドリック・シェーンが2001年に共同著者に名を連ねた論文は8日に1本のペースで発表されており、そのすべてが捏造、というかもはや架空の作品であったというのだから、これに比べれば小保方さんなど正しく「一発屋」に等しいといわなければならない。
しかし大切なのは、こうした極めてスキャンダラスな側面(ドイツの大学にしかないという再現に不可欠な装置を確認しに行くくだりには震えるが)ではない。
本書が我々門外漢に明らかにするのは、科学の世界が仮説の積み重ねによって成立しており、そこにはどうしても科学者の善性を信頼するという「性善説」がなければ成り行かないことだ。
こうした構造が、防ぎようもなく繰り返される捏造事件の温床となる。
だがどうすればよいのか。
仮説の積み重ねのうえで薬を飲み、空を飛び、人工授精で子どもをなす現代の我々にとり、これは他人事ではない。
問題の本質を理解しようともせずワイドショーのネタがごとく「やった、やってない」をワー、キャー云っていても徒にひとを傷付けるばかりだ。
少なくとも「STAP論文」の発表によって、小保方晴子という女性がいかに、どれだけ深く日本の科学会を、その信頼を、信用に拠って立つシステムを傷付けたのかを正しく理解するところから始めなければならない。
小保方晴子さん守護霊インタビュー それでも「STAP細胞」は存在する (OR books)
- 作者: 大川隆法
- 出版社/メーカー: 幸福の科学出版
- 発売日: 2014/04/18
- メディア: 単行本
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