いわゆるネタバレに怒る人々にどうこう云うつもりはない。ただ私はネタバレを気にしない。
自分がネタをバラされるのも気にしないし、ひとにネタをバラさないよう気を付けるつもりもない。
怒るのがあなたの主義なら、気にしないのが私の主義だ。
正義について語るのはやめようではないか。戦争になる。
いい物語は結末を忘れさせてくれる。
だから子どもたちは何度でも同じ話を聞きたがる。
「オーシャンズ11」を(これ最後全員逮捕だったらどうしよう…)と本気で心配しながら観ていた人はあまりいないと思う。
「大丈夫だ」と分かっていても手に汗握る映画というのは撮れるわけだ。
だいたい結末という点でいえばきみの人生だってネタは割れている。最後は無力に死んでいくわけだが、それでもきみはそれを忘れて今日も必死に生きている。
「必死に生きる」というのは文字面だけ見ると訳がわからなくなるが、とにかく、みんな必死に生きている。
— Hoso Rail (@hoso9999) 2016年5月5日
がっかりしないで欲しい。つまりきみの人生は悪くない映画だと云っているのだ。エンドロールが終わるまで、席を立たずに見届けようではないか。
いい物語の話をしよう。
当然ネタバレを含んでいる。
ただ本エントリがはらむ最大の問題はネタバレではなく、手もとに本がないので事実関係に間違いがあるかもしれないということで、当ブログにはあまりないことだがここは正直にお詫びしておく。
大変申し訳ありません。
ブルー・シャンペンは巨大な質量の水を宇宙空間に浮かべたリゾート施設。
ある日、そこへメディア界の頂点に立つメガン・ギャロウェイがあらわれる。
幼い頃に事故で脊椎を損傷したメガンは、世界にひとつしかない矯正装置「黄金のジプシー」を提供されてやっと人並みの生活を送れるようになった障がい者だ。
彼女は身体を覆う金属製の外骨格を通じて自分の体験を外部の「テープ」に記録し、世界中でこれが販売された収入で「黄金のジプシー」の使用料をまかなっている女優だ。
QMは競泳のキャリアを諦めてブルー・シャンペンで監視員を務めている。
訪れたメガンが溺れかけるのを助けたQMは、女優としての華やかな顔に隠されたか弱さと、それを守ってあまりある芯の強さにひかれ、ほどなくふたりは恋に落ちる。
最悪の結末はこうだ。
プロデューサーたちは、いままでに一度も記録されたことのない「テープ」を求めていた。
それは「黄金のジプシー」を身につけたメガンが本当の恋に落ちる瞬間を記録したテープ。
シナリオもなく、演技でもない、心からの恋をするメガンを記録したテープを発売することを、彼らは夢見ていたのだ。
そしてもっとも深くQMを傷つけるのは、メガンがそれを承諾していたということだった。
なぜならばそれだけが、メガンが自分の人生を生きていくために必要な術だったからだ。
絶版になっている早川書房の「ブルー・シャンペン」(ジョン・ヴァーリィ)には、同じ世界観のなかで紡がれる六つの短編が収められている。
なかにはブルー・シャンペンで別れたメガンとQMのその後がうかがわれるエピソードも登場するが、それに関わらず表題作「ブルー・シャンペン」の小さな輝きは永遠に不変だと感じる。
浅倉久志の訳になる僕のバイブルのひとつであるこの作品を、大野万紀氏が巻末に寄せる解説の冒頭にある言葉とともにご紹介する。
「あなたはもう結末を知っている」
だがそれは物語をする妨げにはならないというのが僕の考えだ。
- 作者: ジョンヴァーリイ,John Varley,浅倉久志
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1994/09
- メディア: 文庫
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