新宿メロドラマ

安っぽいヒューマニズムは要らない。高いのを持ってこい。

これ以上すき焼きを食うようだと、俺はお前を。

あなたの友人の年収が800万円で、借金は8,000万円あったとしよう。年収の10倍だ。

毎年200万円を返済に充てるのだが、同時にほかから同じ額を借り入れている。完全な自転車操業である。

何を思うだろうか。


これがあなたの暮らしている国の実態だ。

参考までに日本の国債を買うということは、この友人に5年、10年縛りでカネを貸すことに他ならない。

返ってくるだろうなどと思う方がお人好しというものだ。

この友人にカネの相談をされたら僕なら迷わず「自己破産して、出直せ」とすすめるだろう。それが彼のためだからだ。

だが僕の住む国に破産してもらうわけにはいかない。

財政破綻した夕張のニュースを見かけた人もいるだろうが、国の財政が破綻するというのはあの程度の話ではない。

自己破産した友人は銀行を押さえられ、家財をすべて持って行かれるだろうが、それ以上に借金もできなければカードも作れないというご身分となる。

国がこうなるといわゆるインフレを生じるので、よくどこかの国のニュースで見るように、あんぱんを買いに行くのにリヤカーに札束を積んで行くようなハメになるが、これはまだ甘い方だ。本当にあんぱんが欲しければリヤカーを引けばよいだけの話である。


これもご存じの通り、日本の食糧自給率はわずか40%(ちなみにフランスは122%。食料輸出国というわけだ)、エネルギー自給率(石油・ガソリンから発電に使う天然ガスをもちろん含む)は20%だが、一度借金でトンだ国の発行する「円」など誰も信用しないから、輸入するには目の飛び出るような額を支払わなければならなくなる。

このように為替の吹き飛んだなかでは、食料もエネルギーも(つまりそれはすべてが、ということだが)日本人の手の届かぬところへ行くだろう。

これが破綻した国の姿だ。

米ソ冷戦終結の本当の理由はソ連の財政的な行き詰まりにあるとされている。

ソ連はつまり生活に困窮した挙げ句に破綻を恐れ武器をおいたのである。

世界二位の超大国が恥を忍んでオートロックのマンションからカギのない木造アパートの1階へ引っ越したというわけだ。

これを聞くだけでも国家にとっての財政破綻が何を意味するかは推して知るべしといったところだ。


では件の友人は毎年借り換える200万円以外の600万円を何に使っているのか。


まず200万円を親への仕送り(社会保障費)に充てている。

160万円は古くなった家の手入れ(地方交付税交付金)に回しているから、結局生活費には340万しか充てられていないという計算だ。

これは年収の40%程度であり、すべてはこのなかでやりくりをすることになる。

なんとなくでも「国のやっていそうなこと」を思い起こせば、これがいかに窮屈なことかは想像に難くない。


ところで友人は子供と同居している。

子供の年収はまさかの3,200万円で、親の収入にざっと4倍を上回る。

ところが子供はこれを親に隠しているばかりか、毎月100万円を貯金に回している有様だ(親が毎年200万円の借入を行っていることを思い出そう)。

2003年2月、衆議院塩川正十郎財務大臣がついに云う。

「要するに、母屋ではおかゆ食って、辛抱しようとケチケチ節約しておるのに、離れ座敷で子供がすき焼きを食っておる、そういう状況が実際行われておるんです」


子供の名を「特別会計」と云う。

毎年春になると予算をめぐって大の大人たちが国会を舞台に押し合いへし合いをやっているが、あの「予算」とは実はここで云う「親の年収」に過ぎず、これを「一般会計」と呼ぶ。

子供の年収3,200万円も親の年収同様、様々なかたちで国民から徴収されている(電気代への上乗せ、空港使用料等)にもかかわらず、3,000万円あまりもの使い道に国民の監視はとどかない。

そのほとんどは我々の目に触れぬところで、官僚たちによって分配されている。


官僚の「財布」にされているその実態は想像を上回ってひどいものだ。

経済産業省配下の「資源エネルギー庁」は「原子力のページ」「原子力情報ナビ」の2サイトの制作・更新費用として4年で12億円もの予算を計上していた。

親の経済産業省本体のホームページ運営費でさえ年間132万円だったというのにだ。

官僚たちの貪欲さはとどまるところを知らず、タクシーチケット、マッサージチェアはもはやまだいいものの、「天下り先」となる独立行政法人を通した社団法人・民間企業への野放図な発注で予算を食い散らし、毎年残る100万円(実際には10兆円という額だ)も「存在しない」と言い張って親のもとへ返そうとしない。

これがいわゆる「埋蔵金問題」である。


「税金てなんのために払わなきゃいけないんだろうな」と思うことは僕にもしばしばあるが、結局のところ、この国を破綻から救うために、僕たちは税金を払わなければならないのだ。

借金を膨らませたのははっきり云って、我々の親の世代にビジョンがなかったことと、彼らが政治に無関心であったせいだが、それはもはや云うまい。

問題はこれからも払い続ける税金をもって、自転車操業と破綻をいかに遠ざけるかだ。

そしてこの問題を論じる際、この国の「予算」は80兆円などではなく、実際には400兆円を超えており、そこには常軌を逸した浪費の構造が潜んでいることを理解しなければ始まらない。

年収の10倍を超える借金だ。


もはや外科的手段によってでも早急に手を打つ以外、彼を救う道はない。

亡国予算―闇に消えた「特別会計」

亡国予算―闇に消えた「特別会計」