新宿メロドラマ

安っぽいヒューマニズムは要らない。高いのを持ってこい。

うどん、テンション、その他の顕現。

大幅な増資を発表した全日本空輸の株価が続落し、ついに320円を切ったという報せが世界をかけめぐっている頃、私は羽田にいて第2ターミナル60番ゲート脇のANA FESTAでうどんに食らいついていた。

ベースのうどんにきつね、山菜、温泉玉子ならびに舞茸の天ぷらを添えて勘定は910円。

うどんは小ぶりだが倍を払っても構わないと私は思う。


財務体質よりもそのうどんのクオリティにおいて、私はJALを見下げ果てたエアラインだと考えている。

国家にも企業にも、日々多くのトラブルが発生し、ときに我々の目に触れることとなる。

トラブルはとにもかくにもどうにかせねばならんが、実はトラブルが発生する最大の原因は「運が悪かった」ということであるから、いちいちこれらトラブルに「適切な予防策」などを講じていた日にはコストがかさみ、業務・組織は硬直化してしまう。

ではどうすればよいのか。

原点に立ち返り、そこだけに意識を集中することだ。

政府なら「国民の生命と財産を守る」というこのふたつだけは「絶対に」ミスらないよう、「その為に必要なこと」や「その為に必要なことの為に必要なこと」は、理屈はさておきひとまず忘れることだろう。

これが企業であれば、まず「安く仕入れて高く売り、粗利益を確保すること」だ。「その為に必要なこと」や「その為に必要なことの為に必要なこと」が本旨にとってかわってはいないか、確認する必要があろう。


「運の悪さ」はそれ自体ちょっとした火花のようなもので、問題は部屋にガスが漏れていないかどうかである。

問題にもならないような小さなミスや手抜きの蓄積の果てに火花が飛ぶと、百人単位の人命もしばしば失われる。

そして「運の悪さ」から逃れる術を現代の科学は発見できていない。

したがって対応すべきはミスや手抜きの方なのだが、ミスや手抜きとはいえそもそも「問題にもならない」程度のことなので、これを問題化することは原理的に不可能である。

定義も提示もせずにこれを防ぐには、手がける人間のモラル(「倫理」ではなく「士気」)に頼るほかない。

トヨタの品質管理と「カイゼン」努力はカンバン方式QCサークルといった仕組み・制度によって維持発展されてきたのではなく、それを実行する人々の高い士気のもので実現されてきたのである。

危機的な状態において、シンプルな言葉が求められる。

その本懐に立ち戻ること。

カイゼン」も「提案」も「徹底」もそして品質も、すべては働く人間たちの士気から生まれるのだ。

仕組みや制度をそれと取り違えてはいけない。


窓の外ではポケモンジェットが離陸に向け、その腹から機内食と思しきコンテナを呑み込んでいた。

ANAは増資にあたり引き続き、ポスト「ジャンボ」時代に向けた機体の調達をはじめとした構造変革をおこなっていくことを表明した。

私は七味で紅く染まった関西ダシをぺろりと飲みきり、年末に手放したANA株を買い戻すときが近づいていることを思った。