先日、あるマブダチと飲んでいたら5年ほどまえに初めて出会ったときの話になった。
「あの日、僕は凄い人に出会ったなと思って、Twitterでつぶやきましたもん」と見せられた当日のTLには「凄いひとはいるところにはいる」などということが興奮気味に連投されていたが、それが僕のことだという。
いわゆる意識の高い学生が勉強会にでも参加したあと勘違いして得々と投下するようなポストではあったが、自分のことを云われていると思うとなかなかこういうことはないから照れくさいながらも正直嬉しかった。
そうしたら彼がiPhoneをしまいながら「当時は僕も独立したばかりで色んなものが大きく見えちゃってたんでしょうね・・・・・・」とため息交じりに云った。
5年前に「マブになってください」とニューワールドホテルのバーで云われたから「いいですよ」と応えたものの、まだ一度もマブが発動した試しはなく、このままいずれはモブになるのではないかと懸念される。
そんな、いまは大きくなって私のことを特にどうとも思わなくなった年上のマブが「投資について、これを読んでおけという本を紹介してください」と虫の良いことを云ってきたが、頼まれたら応じるのがマブだということで説明をうけているため憤懣やるかたないながら今回もお応えする。
なおこれを聞くと誠実な読者のみなさんは驚愕にスマホを取り落とすのではないかと思うが、彼は弊ブログが紹介する書籍を読んでいるくせにリンクを踏まない、いわゆる広告屋である。名前は伏せるが大変ココロアル方だとまでご紹介しておこう。
また、彼にかぎらず弊ブログを真に受ける人が少ないことはAmazonアソシエイツの売上レポートからも明らかだが、当エントリがいかなる金融商品の販売・勧誘を目的としたものでないこと、および投資はあくまで自己責任であることを念のためおことわりさせていただく。
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投資運用について学ぶなら、まず何も考えずに投資するのをやめることから。
投資というのは決して運がいいから儲かるというものでもなければ、いい友達がいれば儲かるというものでもない。
基本的な理論に、経済情勢についての一般情報と商品情報があり、自分の世界観(人生観でもいいが)を表現したポートフォリオと運用方針を堅持する精神力(これがいわゆる「経験」)があってはじめて資産運用は人生の力になってくれるというのが僕の確信だ。
そういった意味で、資産運用を考えるにあたって人はまず運に頼むことと「おいしい情報」を待ってばかりいることをやめなければならない。
投資の世界は「TANSTAAFL」(There Ain't No Such Thing As A Free Lunch:タダの昼飯なんてものはない=タダで手に入る情報に価値はない、またはリスクをとらずにリターンを得ることなどできない)が鉄則だ。
これがわからず「おいしい情報」を手に入れたと思い込み、はしゃいだ人たちの壮絶な物語で歴史の図書館はいっぱいである。
それを防ぐための第一歩として「いままでの私」がいかに無知でおいしいカモだったかを知ることができるのが「金融広告を読め どれが当たりで、どれがハズレか (光文社新書)」。
メガバンクが窓口で販売しているような商品の広告を例に挙げ、「いかにもオトクな商品であるかのようなこの広告、理解して読めばこれだけパフォーマンスの低下する要素を含んでいるとわかる」ということを理屈から丁寧に解説してくれる。
投資家というよりは消費者教育の書と云った方がいいかもしれない。
今日び銀行で外貨預金を組む人のあわれなことと思われてくる。
金融広告を読め どれが当たりで、どれがハズレか (光文社新書)
- 作者: 吉本佳生
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2005/05/17
- メディア: 新書
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読んでいくと、要するに銀行の窓口で販売されるような類の金融商品にロクなものはないということがよくわかる。
あれだけ広告したら広告費もかかるだろうし、そもそも銀行員が必死になって売らないと売れないような商品なんだから、得をするのは投資家ではない誰かなのだろうということぐらいは想像がつくのだが、本書から学び取るべきもっとも大切なポイントは、「とはいえ金融規制を受けている都合上、不利な条件も広告や目論見書には必ず記載されているのだ」というところ。
見やすい情報だけを判断して少し複雑になると理解することを放棄するというのでは何にどう取り組んでいっても世界は広がらない。
後述のように投資運用は「ほとんど何も考えないでいい」インデックス投資が一番楽で利益ももたらすというのが昨今の定説だが、それでもやはり時間がゆるせば大なり小なり自分の世界観を問うべくエキストラでリスクをとってベンチマークを上回る利益にチャレンジしたいと考えるのが人の常だ。逆にこうした気持ちを容易に抑え込むことのできる人が、得た利益をもってどんな人生を送りたいのかがわからない。
自分の信念・世界観を反映するポートフォリオを構成するためには、それにふさわしい商品を探してこなければならない。
こうしたときにわけのわからないところへ資金を投じないよう、最低限の知見を確立しよう。
受験生向けの参考書程度にはたいくつな例題が続くので、理屈がわかったと思ったら熟読する必要はない。
「わからないものには手を出さない 」というのは僕が資産運用に限らずビジネスにおいても大切にしている原則だ。
「ウォーレン・バフェットが大量に保有していると云われています」というだけの情報しかないある種の業種へ投資するファンド・オブ・ファンズなんかが持ち込まれることもあるが、こういうものはキワモノとわきまえて、どうなっても後悔しない程度のお付き合いにとどめておくことだ。
あるいはミャンマーへ中古車を輸出すると儲かるというような話も、当時はたしかにそうだったのだろうがミャンマーも貿易業もクルマもわからない僕が手を出してどうにかなるわけがない。
同じように飲食店にカネを出さないかと云われご辞退申し上げたことがあったが、これについてはいまも正直やや思いを残している。
さておき、あとで述べるインデックス投資で時間をかけずに長期・超長期で安定的に運用ができればそれでいいのよという方もやはり理解しておくべきだと思うのは、金利と為替の関係といったマクロ経済の表層部分にまつわる基礎理論や、オプション・スワップといったデリバティブ取引の基本、「ヘッジファンドとは何か」といったような金融マーケットの構造の話。
こういうことを概念としてでも頭にいれておかないと、誰かに偉そうな話をされたとき、「俺にはわからない高度でおいしい話があるんだ!」と誤解してフラッと変なものに手を出すことになる。
「この世には高度でおいしい話などない」という確固たる信念を得るために最低限の知識を頭にいれておくことは、「友人の友人」や、ざっくばらんにいえば証券会社・銀行の営業マンからあなたのポートフォリオを防衛することになる。
このために一読をお勧めしたいのが「[改訂新版]藤巻健史の実践・金融マーケット集中講義 (光文社新書)」。
「伝説のトレーダー」として債券市場に名を轟かせ、モルガン銀行東京支店長などを歴任ののちジョージ・ソロスのアドバイザーも経験した「世界のフジマキ」が学生・社会人から選ばれた聴講者に対し、複数回にわたり金融マーケットの基本を軽妙な語り口で説いたゼミの内容を収録している。
書き起こしなので読みやすく、またいろいろな方向へ興味を伸ばしてもくれる良書。
[改訂新版]藤巻健史の実践・金融マーケット集中講義 (光文社新書)
- 作者: 藤巻健史
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2012/03/16
- メディア: 新書
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ところで資産運用からは少し話がそれるが、藤巻健史といえば日本経済の崩壊を予言し、みずからも「日本売り」のポジションをとっていることを上掲の書でも紹介している。
フジマキは何をもって日本の金利が急上昇して財政が破綻、ハイパーインフレーションによって経済が崩壊すると主張するのか、それが簡潔にまとめられたのが「迫り来る日本経済の崩壊」。
藤巻健史といえば弟の故・藤巻幸夫とともに国政に進出し、現在も参議院議員を務めているが、なぜ日本経済の崩壊を確信する自分がいま国政の場にいるのかについて触れた巻末の一節は、皮肉な口ぶりで知られる筆者の誠実な人柄を思わせ、胸に迫るものがある。
資産運用の最低ラインは資産防衛であるとお考えになるのであれば、繰り返し述べている「自分の世界観」にこうした見方をくわえるためにも、一読しておくとよいかもしれない。
さてお待たせをしているが、こちらの本についてはすでにお読みになっているという方も多いのではないかと察する。
「完璧な脱税小説」と謳われた「マネーロンダリング」でデビューした橘玲ももはや大御所だが、そもそもは世界的な金融自由化の流れを背景に、グローバル金融マーケットへのアクセスをはじめとする様々な仕組みを自分のものとして自由な生き方を手に入れようという理想を掲げる著者が、現代では「長期的に必ず利益をもたらすと断言できる唯一の投資法」と考えられているインデックス投資の基本について一般向けにわかりやすく解説した入門書が「臆病者のための株入門」。
「インデックス投資」の考え方というのは極めて明快だ。
いまさら僕なんかが解説するのは誠に僭越で恥ずかしいのだがマブの頼みということでお伝えすると、
「経済社会は長期的には右肩上がりに成長していく。
従って株式市場全体に投資すれば、長期的には必ずリターンが得られる。
このシンプルな投資法には高いフィーをとるファンドマネージャーは不要である。
よってファンドマネージャーに払うフィーが要らない分、インデックス投資のパフォーマンスは必ずその他のファンドのパフォーマンスを上回る」
というものだ。
JALがよくてANAがわるいというときがあるかもしれない。じゃあ両方の株を買おう。
しかし旅客・輸送業界がダメで、製造業がいいというときがあるかもしれない。じゃあすべての業界の株を買おう。
ところが日本の市場がダメで、中国がいいというときもあるだろう。じゃあ世界中の株を買おう。
簡単にいえばこういうことで、有効なリターンを確保しながらリスクを有意に抑え込むためには、結局世界中の株式市場に上場している株式を、その市場の大きさに比例する配分で買っていくのがよいということになっている。
「え、そんなのめちゃくちゃ面倒じゃないの」と思ったところ、それが商品知識の問題になってくるのだが、実際こうした投資法のために必要な商品はたったひとつである。
細かいことははぶくが、ニューヨーク証券取引所に上場しているACWI、その名もAll Country World Index=全世界株式指数というETF(指数に連動し、株式と同じように売り買いできる商品)に投資すると10,000円からでも世界中の株式市場にいっぺんに投資できる。
たとえば時価総額に比例して、10,000円なら「アメリカに5,121円、日本に801円、イギリスに627円、スイスに365円・・・・・」と分散投資するのと同じ効果があるというわけだ。
そして現在、日本の大手ネット証券会社では外国株式としてACWIの売り買いが可能になっている。
あるいは外国株の取引が面倒だという方は、日本国内で以下のような投資信託を買い付けることもできる。
emaxis 全世界株式インデックス - Google 検索
ACWIをベンチマークにしながら、少額から買い付けることができる「普通の投資信託」だ。
ご覧の通り様々なチャネルで販売されているから、すでに口座をもっている証券会社や銀行などで申し込みが可能なのではないだろうか。
しかしいずれにせよ、このワールド・インデックスに投資するのが長期的に有効だと実証されている唯一の投資法なのよということを繰り返し論じているのが上掲の書だ。
もっともこの本の最後で橘玲は皮肉な口調でこう云っている。
ところで自分はこの投資法を実践していない。人間には間違ったことをする自由もあるのだ、と。
これこそ僕のいう「ポートフォリオは自分の世界観の表現だ」ということだ。
いかに10年、20年来のデータが成功を約束してくれたとしても、自分の世界観とは異なるポートフォリオを維持することは人間には不可能だ。
だから健全なポートフォリオを構成し、維持していくためには健全な世界観の獲得が欠かせないといえる。
このために情報を吸収し、整理し、理解しつづけることが必要なのだというのが僕の考えだ。
「そのインデックス投資とかいう簡単だけど退屈でパフォーマンスがいいとかいう投資法についてもうちょっと勉強したいんだけど」という方にお薦めできる本はこの世に一冊しかない。
インデックス投資があらゆる投資信託のパフォーマンスを上回ることを実証し、インデックス投資の有効性を提唱したばかりか実際に指数や商品の開発にも多大に貢献したバートン・マルキールによる現代の古典・「ウォール街のランダム・ウォーカー―株式投資の不滅の真理」だ。
前掲の橘玲の書も、結局は本書をかみくだいたダイジェスト版に過ぎない。
こちらは膨大な記述によって理論を裏付けようという大著だが、最新の事例を織り込むべく改定を繰り返しながらすでに10版を重ねているというのだから、骨のある方は取り組まれるとよいだろう。
専門書というほど難解でもなく、ある程度の理解でよいと割り切って読む分には最後まで難なくいける。
特にインデックス投資に興味があるという方は、その「世界観」をこの先何十年も守っていかなければならないわけだから、精神的なタフネスを養うためにはこれぐらいの理論武装はあった方がよい。
- 作者: バートンマルキール,Burton G. Malkiel,井手正介
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
- 発売日: 2004/04
- メディア: 単行本
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と、まぁ分かる人に見られたら赤面するほかない基礎の基礎とでもいうべきラインナップを挙げてみたが、いかがなものだろうか。
つまるところワールド・インデックスを利用した全世界分散投資が有効だということになっている以上、「投資法」のお話にこれ以上の知識は必要ないというのが僕の考えだ。
それではつまらないから運用資産の5%を、10%をアクティブ投資に振り向けるという場合には、これは投資法のお話ではなく世界情勢やマクロ政策についての情報を日々更新し、理解していくことが必要になる。
これはこれでまさに世界観の構築にほかならないから楽しい作業だが、主なツールはウェブサイト、新聞・雑誌などの紙誌となるためご紹介はまた別の機会としたい。
なにせ地球は僕らのアソビバだ。
下天の内にくらぶれば、自分の生きる世界のことぐらい、こうした動機でもってちょっとは詳しく知って理解したつもりでいたいじゃないかというのが僕の本音である。