新宿メロドラマ

安っぽいヒューマニズムは要らない。高いのを持ってこい。

2015年ぼく「中国景気は最後の上り坂。世界経済は米国景気の回復に伴い...」→2016年ぼく「ぷいきゅあがんばえー!」

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はじめに

投資家(俺)の皆さま、新年明けましておめでとうございます。

いまだ霧の晴れぬ世界経済、9.11後をうわまわる規模に発展しつつある「テロとの戦い」や各国にみられる排外主義の高まりなど、不安の尽きぬ年明けとなりましたが、皆さまには今年も大過なく、幸せな1年となりますことを心よりお祈り申し上げます。

下半期に原油/金融株/マリオ・ドラギの三点コンボで未曾有の犠牲を出した2015年の当ファンドですが、2016年に向けたファンドマネージャーたる私の心境を一言で表現しますと以下のようになります。

 

「ぷいきゅあがんばえー!」

 

以下、詳細にご説明してまいります。

 

2015年の当ファンドは、中国市場のうねりや、各国地域中央銀行と市場の駆け引きのただなかに揉まれ少なからぬ損失を生じましたが、年末に含み損を解消した時点で年間を通した利益計上という最低限の責任を果たすことができました。2015年の投資ハイライトは以下の通りです。

 

投資ハイライト1: 中国株ファンドの6月急落前、および初期における売却

2014年末より投資しておりました中国株のポジションを、6月の急落前にほぼ半分、急落初期にもう半分と全量売却し、利益を確定できたのは大きな収穫でした。

上海指数のオーバーシュートを感じ取っての動きでしたが、短期間に大きく売却していった決断は評価できます。

上海のKTVにいた小姐には誠に気の毒な結果となりましたが、当ファンドはここで確定した利益がなければ秋口に頓死していた可能性があり、上海出張も含め、情報感度の高さと決断力の大切さをあらためて思い知る一幕でした。

 

投資ハイライト2: 8月世界同時株安における日経平均でのリバウンド取り

のちに反省点として挙げます大型金融株への投資を除き、当ファンドでは従来日本株への投資を控えております(グローバルポートフォリオなどに含まれる日本株ポーションを除く)が、8月下旬の世界同時株安におきまして、日経平均が一時的に売られすぎたと判断したため、SBI日本株3.7ブルファンドおよび日経レバW(ETF)を通じて日本株市場へ参入し、3度にわたりリバウンドを取りました。

市場が混乱を極めるなかで、慣れない短期売買を繰り返したため心身ともに大きなコストを支払いましたが、2015年の投機においては比較的大きな成功を収めることができました。

 

投資ハイライトは以上です。

しかしながら、以下に振り返りますとおり、2015年の当ファンドの運用には重大な反省点がみられ、本年はこうした点を丁寧に排除いたしまして、強大(strong)で、打ち砕くことのできない(invincible)勝利を打ち立てるべく邁進してまいる所存でございます。

 

反省点1: 商品市場への深入り

リーマンショックから欧州ソブリン危機を経て、「超緩和」ともいうべき状況がつづいた世界経済の状況に鑑み、当ファンドでは引き続き、一定割合を金に投資する方針を維持しております。

しかしながら2015年には、これに加えて底値とみた原油相場へ参入し、一時は15%程度の含み益を生じたにもかかわらず、再度の急落に巻き込まれ、逆に同程度の損失を確定いたしました。

ファンドは本来、金以外の商品市場に対する投資を目論んでおらず、原油のポジションは極短期的なものであるべきでした。

3ヶ月で15%という、特定セクタにおいては充分な利回りを見たにもかかわらず、これを清算しなかったのは、ポジションに対し明確な目標設定をおこなわなかったことによる重大な失敗であり、制度上の対策が求められます。

具体的には、コア・ポートフォリオに含まれないアセットクラスへの投資に関しましては、損益にかかわらず3ヶ月以内に決済することをポリシーに追加いたしました。このポリシーは2016年1月6日現在、すでに運用中でございます。

 

反省点2: 郵政相場見切りの失敗

2015年の日本株市場において、最大のニュースのひとつは日本郵政グループの大型上場でした。

政府が株式を保有する日本郵政グループの株式上場にあたっては、同業種にあたる銀行・保険など大型金融株のPERを参考に売り出し価格が決定されることになっていました。

この売り出しによって得たキャッシュを東北地方の復興財源にまわすことを決めていた日本政府としては、この売り出し価格を事前につりあげることがどうしても必要になるため、日銀やGPIFによるETF買いを通じて大型金融株の株価つりあげがおこなわれるという観測に基づき、当ファンドは春頃より銀行・保険株の買入をおこないました。

この見立て自体に大きな誤りはなく、銀行・保険株は夏にかけ、日経平均を上回る上昇率を記録しました。

しかしながら日本郵政グループのブックビルディングの日程を確認していなかった当ファンドのマネージャーは売り時を逃し、8月末の世界株安に巻き込まれました。

持高のあるときに重大な日程を把握していないのは目隠しをして自動車を運転するのにひとしく、重大な過失であったといわなければなりません。

この点につきましては運用上の対策として、月次・週次のカレンダー確認を徹底していくことを投資家の皆さまにお約束いたします。

なお本件に関して生じた損失に関しましては2015年末時点で確定しております。

 

反省点3: ECBによる追加緩和方針の見誤り

12月初旬に発表されたECBによる追加緩和方針を見誤り、EUR / USD売りポジションを大きく焼かれたのは精神的なダメージのもっとも大きな損失でした。

発表時点まで、ユーロはすでに数ヶ月にわたりドルに対して売り込まれており、市場は実際に発表されたよりも大規模な緩和を織り込んでいると考えるべきでした。

ここまでの2ヶ月にわたり、超短期での売買を繰り返して利ざやを稼いできた当ファンドは、しかしマリオ・ドラギ総裁によって発表される緩和策は「最低でも期待通り」だと考え、かつてない大きなショート・ポジションをとりました。

発表時点でファンドマネージャーはボストンへ向かう機内におり、機内Wi-Fiを介して売買をおこなっておりましたが、すでに酒に酔っていたとの情報があり、事実であれば重大な内規違反だといわねばなりません。

特に証拠金取引において、酒に酔った状態でポジションをとることが地獄への道であることは広く知られています。

ファンドでは、今後もこのようなことがないよう、内部統制を最大の課題として取り組んで参ります。

 

以上に2015年の投資ハイライト、ならびに反省点をご報告いたしました。

以下に当ファンドによる2016年世界経済、各市場の見通しと主戦略を、投資テーマごとにご紹介します。

 

投資テーマ1: USD / JPY相場は110円台後半で安定へ

2016年のUSD / JPY相場の見通しについては経済各紙誌での見方も分かれておりますが、当ファンドは一方的な円安相場はすでに終了したという立場に与します。

2015年末にFRBによる利上げが実現しましたが、為替相場は2016年を通じた数度にわたるさらなる利上げをすでに織り込み済みであり、利上げを材料とするドル高はこれ以上進行しないであろうと考えられます。むしろ中国景気の後退や、途上国からの資金逆流により利上げが予定通りおこなわれないことを警戒する空気が醸成されるでしょう。

一方、日本政府は軽減税率の導入をきわめて政治的な調整の末に決定したため、2017年4月に公約されている消費増税を延期・撤回することはきわめて困難だと考えられます。消費増税が景気回復にふたたび冷や水を浴びせることは間違いなく、2016年を通じて財政出動や金融緩和といった政策手段を大規模に実施することは難しいことから、特に大企業の決算が集中する3月末にかけて、USD / JPYは110円台半ばをはさむ水準まで売り込まれるでしょう。

もっとも、財政出動と異次元緩和の効果が切れつつあるアベノミクスは失敗したという評価が内外から出始めていることや、リフレ派ですら緩和政策の出口戦略について言及しつつある状況、年初からの株式相場の値崩れを盛り返す材料が見当たらないことなどから、消費増税が確実視されるにもかかわらず財政再建には不透明感が漂っており、長期的には円はその他の通貨に対して売られていくであろうという見方を当ファンドは崩しません。

従いまして、USD / JPYは110円台のなかばで円安をヘッジするための買いが入り、110円台後半で安定するであろうと予測します。

ファンドはこのレンジにおいて証拠金取引を通じた売買をおこなっていきます。

 

投資テーマ2: 米国株式市場は年初の混乱を乗り越え、回復へ

利上げによる調達コストの上昇は、特に長引く原油安によって弱り切った米エネルギーセクタのゾンビ企業を破綻に追い込んでいくと考えられます。

こうした懸念をひとつの材料として、米株式市場は年初より売り込まれていますが、8月から9月の世界株安において大きな調整がおこなわれたため、2015年11月以来のレンジを割り込む水準には達しないと当ファンドでは考えています。

アジアを中心とする新興国・途上国からのマネーの逆流が警戒されているため、ワールドポートフォリオは特に年前半にかけて一定程度毀損する怖れがありますが、米国景気は金融やヘルスケアといったセクタを中心に、2016年を通じてゆるやかな成長をみせるでしょう。

こうした立場から、当ファンドは年前半においてエマージング市場への投資を手控え、米国株式市場への投資を進めていきます。

 

投資テーマ3: 日本株は19,000円台半ばで超短期的な売り持ち

アベノミクスの息切れ、大型上場の不在、政策手段への縛りといった理由から、日本国内の株式市場はきわめて脆弱な状態にあると当ファンドは考えています。

年末から突然騒がれるようになった「フィンテック」セクタは、金融庁による相談窓口の開設や規制緩和、金融機関による発言の活発化により一時的なブームを形成する可能性がありますが、現在までのところ、大きな市場を形成しうる材料はなく、当ファンドは金融セクタを含めて日本株式市場全体の判断を「売り」とします。

ただし、日本株に対しては投資しないという基本方針から、インバースETFなどを通じたショートポジションの形成はおこなわず、19,000円台半ばでの3ヶ月以内の「売り持ち」についてのみ可能性を留保します。

 

投資テーマ4: 商品市場からは距離をおく

サウジアラビアとイランとの緊張が高まっており、原油価格上昇の可能性が取りざたされていますが、当ファンドはこの見方を支持しません。

政治状況を背景に若干の思惑買いが入る可能性は排除しませんが、米原油在庫は依然として高く積み上がっており、また、そもそも米国のシェールガス産業にシェアを奪われることを怖れて減産をおこなわなかったサウジアラビアの目標はいまだ達成されておりません。サウジアラビアのこうした政策は2016年を通じて維持されると考えられ、原油相場は投資妙味の薄いものになると考えます。

そもそも当ファンドは商品市場への投資を想定しておらず、数少ない投資対象のひとつである原油相場には特段の魅力が感じられないため、2016年は商品市場から距離をおくことになります。

一方、世界経済・金融システムの決定的な破壊というテールリスクに対する防衛策として、ポートフォリオに一定割合の金を含める方針は引き続き堅持してまいります。

 

投資テーマ5: 中東の混乱は2017年まで継続、欧州市場の回復は緩やか

シリア内戦、ISISの台頭に象徴される中東の混乱は、残念ながら2017年まで継続すると当ファンドは予測しています。これは米大統領選の結果、あらたな大統領が選出されるまで現政権には消極的な中東政策を変更できないと見るためです。

しかしながら2017年にヒラリー・クリントンが大統領に就任すれば、米国による大規模な地上軍の派兵がおこなわれ、ISISの趨勢は削がれると考えます。ただし米国の本格的な介入により有志連合のNATO色が強まることは、アサド政権の帰趨を巡りロシアとの間に緊張を高めることになるでしょう。露プーチン政権はこうした展開に備えて現状の対トルコ強硬姿勢を緩めることなく、当該地域でのプレゼンスを維持・拡大しようとするものと見られます。このような動きにテロの脅威が加わり、2016年を通じて欧州社会の不安感は払拭されることがないでしょう。

ECBによる大規模な金融緩和は少なくとも年前半のあいだ継続すると当ファンドは考えますが、こうした背景から欧州経済の回復は緩やかなものにとどまると考えられます。「投資テーマ1」との兼ね合いを考えますと、欧州株への投資には、EUR / JPY相場の低迷にそなえた為替ヘッジを検討する余地があります。

 

おわりに

以上のように、当ファンドが年にたった一度だけ発行する目論見書を投資家(俺)の皆さまにお届けいたしました。

大きくは、2016年の世界経済は回復・成長軌道の入口にある米・欧と、成長鈍化の過程にある新興・後進国のあいだですっきりしない様相をみせるであろうと考えられます。中東や南シナ海の不安定な状況が緩和し、世界の景気が概ね拡大サイクルに入ると期待される2017年まで、どうにか生き延びられますよう、当ファンドも祈るような気持ちです。

なお、この目論見書はフィクションであり、筆者が実際にこのような方針に則って投資していくわけでもなければ、当然ながら皆さまにお勧めするわけでもないことを末筆ながら付け加えさせていただきます。

投資は1日1時間。自己責任にてどうぞよろしくお願いを申し上げます。