2007年、ついに生産台数で世界トップに立ったトヨタ自動車は08年3月期に連結営業利益2兆円あまりを計上してその社史に絶頂を記すが、その年の秋に発生したリーマンショックとそれに続く世界的な金融危機のなかで販売台数を急激に減らし、数年の間にひた走った拡大路線が裏目に出た結果、07年初頭に8,000円を記録した株価はわずか2年で半値の4,000円を割り込んでしまう。
2009年株主総会の一幕。
「渡辺さんがトヨタを2・2兆円の黒字から4500億円の赤字にした。ギネスブックにこの赤字を申請したらどうでしょうか。もう破られることもないと思うので」。丁寧な口調ながら“褒め殺し”ともとれる確信犯的な“提案”に、議場は一瞬、静まり返った。
巨象トヨタを苦しめる負の遺産、“絶頂からの転落”を徹底検証《特集・トヨタ土壇場》 | 企業 | 東洋経済オンライン | 新世代リーダーのためのビジネスサイト
まぎれもなく株主総会の醍醐味のひとつだ。
一般に、業績はいいときより悪いときの方がクリエイティブなフレーズに恵まれる。
「サイロを壊せ」
CEOに就任したストリンガー氏が、ソニーの縦割り組織を農場の穀物貯蔵庫になぞらえ、壊すよう訴えた有名なスローガンだ。ところが、就任から現在に至るまでの経営上の数字を拾っていくと、サイロではなく、ソニーという会社の“米びつ”そのものを壊してしまったようにも見えてくる。
サイロではなく米びつを壊したストリンガー氏の“赤点通信簿”|inside Enterprise|ダイヤモンド・オンライン
ぜひ怖れることなく経営は常に攻めの一手でお願いしたい。
とはいえ5,000円ぐらいでトヨタの株をつかみ、高値で利益を確定した社員がうちにいた。
ビギナーズラックというか、証券口座を開いて初めて買った銘柄で大勝ちしたのに興奮し、矢継ぎ早にタバコを吸いながら「いや、なんにもしてないんですよ。ただ買って、置いといたらすごい値上がりしちゃって、もうほんとなんにもしてないのにすげぇ儲かっちゃったんですよ」と繰り返していた。
利ざやは300,000円ほどだと云ったか。
余勢を駆ってFXの口座を開き、コツはやはり「買ったらそのまま忘れてしまって長期間置いておくこと」だと物知り顔に話し、実際自分のとったポジションのことを必死で忘れようとしていたが、さてまもなくやってきた金融危機を彼は乗り越えられたのだろうか。
いまや疎遠になってしまって尋ねるすべもない。
しかし 「買ったらそのまま忘れてしまって長期間置いておくこと」という彼の戦略はまんま「バイ・アンド・ホールド」であって、それ自体に大きな問題はない。
* ただしポートフォリオが充分に分散化されていないことには問題がある。
** FXが信用取引であることにはもっと問題がある。
***よってトータルとして彼の投資戦略は破滅型であったといえる。
投資の王道は、
1. 市場と同じ構成のポートフォリオを
2. 長期間保有すること
だとする考え方が近年ますます人気を博している。
短期的に市場はランダム・ウォーク、すなわち先を読むことの不可能な世界だからというのがその根拠である。
この考え方をつきつめると、「厳選された銘柄を組み入れ短期間で高い利回りを実現するというファンドにその論拠はない」ということになるし、実際に「ファンドマネージャーに払う信託報酬や売り買いするたびに発生する手数料を計算にいれると、総体として投資ファンドのパフォーマンスは市場平均を下回る」ことが明らかになっている。
結果から言いますと、なんと猫のオーランドが5542ポンド(約80万円)で堂々の1位。
何も考えないことに長けた者が市場を制するのである。
従ってこちらの実験の目的は空調の効いた部屋で高い報酬を得ながら取り引きをおこなうトレーダーをあざ笑うことにほかならない。
事実ラットに与えられた小綺麗な「オフィス」はそれ自体が笑いを誘う。
側面が透明なケージになっていて、ボタンを押すと赤もしくは緑のLEDライトが点灯する仕組み。装置には空調と音楽システムが搭載されています。
さらにいえば、「正解率の高いラットだけを残す」というのは結果的にパフォーマンスの悪かったファンドが次々に解散し、過去たまたま成績がよかったファンドばかりが常に残っているためファンドはどれも成功しているように錯覚するという「生存者バイアス」を表現しており秀逸だ。
さて10年周期の危機がそろそろやってくるのではないかと危惧する人もいれば、欧州に足をひっぱられながらも米国景気の回復が世界に息の長い成長局面をもたらすという人もいる昨今。
何も考えずに儲からないかと考える向きには現代投資理論を一般向けにわかりやすく説いた現代の古典に取り組むことをお薦めしよう。
なにせ何も考えないことだけが唯一のセオリーだというのだ。
原著第10版の貫禄にはなかなか逆らえるものではない。
ウォール街のランダム・ウォーカー <原著第10版>―株式投資の不滅の真理
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「忘れるのが一番すよ、儲かる人ってみんなほっといて気付いたらすげぇ利益出てたって人ばっかりなんすよ」とせわしなくタバコを吸いながら唱えていた彼は果たしてその本懐を遂げたのだろうか。
なお世界中の株式市場を全部買うに等しいETF「All Country World Index」(ACWI)は2008年に記録した高値をいまだ更新していない。
※ タイトルは町田町蔵+北澤組「麦ライス、湯」(「駐車場のヨハネ」収録)から。
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