むかし「モバイル広告事業部長」として鳴らした若造がいて、当時はまだ25歳ぐらいだったが、
「無人島へなにかひとつ持ってくとしたら、何もってく?」という質問に
「Googleの検索窓ですね!」となめた返事をしており、こいつはまだまだ世間の厳しさを知らないなと思った覚えがある。
本年7冊目は僕が無人島へだって持っていくだろうという本のひとつ、「餌」(ケネス・アベル/早川書房)の、何度目かわからないぐらいの再読だった(だいたい、この本自体もう3回ぐらい買い直している)ということで、今日は恥を忍んで「うわっ、わたしの愛読書、青すぎ・・・・?」というリストを公開する。
いずれも「いまもこの本を読み返しているのは日本で僕ぐらいではないか」といったシロモノだが、そこがおっさんの哀しさで、そのすべてが電子化されておらず、しかもほとんどが一刷限りで絶版になっているため、皆さんが買おうったってマケプで古本を購入するしかなく、二束三文でアフィリエイトの売り上げも期待できないが、それでも紹介するのは私からの好意と汲んでいただきたい。
まず前掲の「餌」。原題は“The Bait”、まさに「餌」。
ボストン市警の刑事・ジャックが飲酒運転で事故を起こし、マフィアの息子を死なせてしまう。
助手席には愛人を乗せていたことがわかり、妻は子どもを連れて彼のもとを去って行った。
服役中も古巣の警察はよくしてくれたが、マフィアのドン・ダンジェロは復讐の機会をじっと待っていた。
刑期を務め終えて出所したものの、ダンジェロとファミリーの影に脅かされながら日々を過ごすジャックに、ある日検察局が接触してくる。
ダンジェロは、息子の復讐を誓っている。
狡猾に法の抜け穴をかいくぐってきたドン・ダンジェロを捕らえるたった一度のチャンスは、彼がジャックの心臓に弾を撃ち込む瞬間しかない。そのための「餌」になれというのが彼らの申し出だった。
ジャック自身がおとりとなって、ダンジェロを塀の向こうへ突き落とす以外に、恐怖の日々から逃れる道はない。
承諾したジャックの周囲では、やがて過去の事件にまつわるいくつもの謎がひとつに繋がり始める。
作者はどうやら2冊しか上梓する機会を得られなかったようで、本邦訳出はこの一冊のみ。
ジョン・ル・カレを多数訳している村上博基の、全編夜道を行くような暗い文体がいい。
今年はついに最後まで読み切れなかった「源にふれろ」(ケム・ナン/早川書房)。
青春は暗くて孤独でなければ小説にならない。
田舎町をひとりで出て行ったはすっぱな姉が西海岸で厄介事に巻き込まれたという話を聞かされた弟の「僕」は、姉への秘めた思いに突き動かされ、その後を追う。
手がかりとなるいくつかの名前は地元で名の知れたサーファー達のものだった。
蒸せるようなドラッグと暴力の気配で張り詰める街で、少年は孤独を知り、女に出会い、波を乗りこなし、やがて真実にたどりつく。
男の子は街を捨て、旅に出なければ大人になれない。
古本屋でこの本に出会った中学生の僕が生まれ育った街を出るまでは、あと5年といったところだった。
旅立ちに抱いた不安すら、いまは懐かしい。
「サッド・ムーヴィーズ」(マーク・リンキスト/集英社)。
「ジェネレーションX」もいまや記憶の彼方となった。「しらけ世代」とも云われたこの世代に属するマーク・リンキストだが、どうやらこの一冊しか物すことはできなかった模様。
ハリウッドの配給会社でバカげた映画のコピーライターをやっている僕は同棲する彼女との間に緩やかな危機を感じていた。
クスリとパーティーと野放図なセックスで埋め尽くされた90年代初頭の毎日に、変わり映えのしない映画と繰り返される二日酔い。すべてが、あの日試写室でおぼえた彼女に対する情熱までもが、ありがちなコピーのように思えてきたとき、僕は何かを信じたくて彼女を受取人にした生命保険に加入する。
このままいつか死ぬのだろう、自分の生を他人事のように覚めた目で見つめる僕のもとに、放浪の友人が訪ねてくる。
「オグヴァスドが街に来ている」。
Ogvassedという風変わりな友人の名前は “God saves”(神は救う) のアナグラムだと訳者があとがきで読み解いている。
虚飾が服を着て歩いているような登場人物たちのなかで、愛犬のブラッキー以外は何ももたない友人・オグヴァスドだけが主人公に自分の言葉を語らせることになる。
トイレの落書きを集めているという主人公に、面白いのがあったから見てこいよとオグヴァスドが促すシーンがいい。
いいおっさんになると引いて見てしまうが、ジェイ・マキナニーやブレット・イーストン・エリスを読み直そうといういい機会にもなる。
酒を飲みながらでも一気に読み切れるイージーさだが、しらけちまったことへの哀しみはしっかりと残る良書。
いまの若い人はもっと熱くて大切なものを抱えているようなので、もはや年寄りの懐古にしかならないかも。
「ぼくがミステリを書くまえ」(デイヴィッド・ボーマン/ハヤカワ書房)。
探偵小説と70年代アメリカン・ニューシネマへのオマージュに彩られた青春ロード・ノヴェル。
ミステリを信仰の対象とする主人公のぼくは、実家を逃げ出す道中、砂漠に向かってオレンジを投げつけるエキセントリックな人妻・シルヴィアに出会う。
それを恋かと考え込むにはあまりに世間知らずな主人公は、めくるめく興奮のうちに彼女とアメリカを駆け回り、やがてシルヴィアの醜悪な夫の存在を知る。
シルヴィアはなぜ、ぼくの前から姿を消したのか?なぜ僕はミステリばかり読んでいてはいけないのか?
この世の邪悪なことどもは、決してフィリップ・マーロウの手に負えるものではない。
いまはミステリ作家となった主人公が、本当のこの世界へ生まれ変わるまでの長い道のりを描く物語。
学生時代に僕の部屋に泊まり、「なんか貸してくれよ」と云ってこの本を持って帰った先輩の感想は「重さがないな」だった。
ぼくがミステリを書くまえ (Hayakawa Novels)
- 作者: デイヴィッドボーマン,David Bowman,石田善彦
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1996/11
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以上、毎日ブログを書いていると、どんどん秘密がなくなって人間が強くなっていく。
ありがたい。
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