バングラデシュ。
暑い/寒い、辛い/甘い、高い/低い、尊い/醜い、清い/汚いと、言葉は一見自由だ。 あるいは言葉は組み合わせによってさらに多次元的なスペースを飛び回ることができる。「ドブネズミみたいに美しく」というやつだ。こうすれば言葉はもう美しい/汚いとい…
昨夜よりは早い時間だったがプールサイドに客は多くなかった。相変わらず飛び回る大ぶりの蚊を気にしながらビールを飲んで、僕はT氏がビュッフェから戻ってくるのを待った。「凄い量ですね。アメリカ人みたいですよ」戻ってきたT氏は皿にいっぱいのバーベキ…
空港ではきたときと同じ身のこなしのいいオフィシャルの男が現れて我々の荷物をひっつかんで出国と搭乗の手続きを済ませてくれた。 ロビーのベンチで荷物の整理を始めると、オフィシャルは「もういいかい」と尋ねた。 「サンキュー。喫煙所はある?」と僕が…
車がダッカ市内の街角を曲がると、そこに突然「貧しい人々」がいた。 Aさんは彼らのことを"poor people"と呼ぶ。彼は頻繁に"poor"という言葉を使うのだった。 知らない町でその一帯の「雰囲気」を正しくつかむのは簡単ではないが、ここも僕の目にはごく普通…
最終日の朝は遅めの朝食にして身体を休める。今日の夜ダッカを出る便で出国すると、成田まではまた長い旅になる。 ビュッフェでは果物や野菜を慎重に避ける。 二日前にホテルに着いてから、僕は歯を磨くのにもミネラルウォーターを使っている。水道の水を使…
暑い/寒い、辛い/甘い、高い/低い、尊い/醜い、清い/汚いと、言葉は一見自由だ。 あるいは言葉は組み合わせによってさらに多次元的なスペースを飛び回ることができる。「ドブネズミみたいに美しく」というやつだ。こうすれば言葉はもう美しい/汚いとい…
昨夜よりは早い時間だったがプールサイドに客は多くなかった。相変わらず飛び回る大ぶりの蚊を気にしながらビールを飲んで、僕はT氏がビュッフェから戻ってくるのを待った。「凄い量ですね。アメリカ人みたいですよ」戻ってきたT氏は皿にいっぱいのバーベキ…
車を連ねて村を出た我々は、Aさんの幼なじみで議員のHさんが経営する繊維工場を表敬訪問した。 地震国からきた私にはどう見てもにわか造りにしか思えないその工場、というかむしろ作りかけなのか壊しかけなのかというぐらい半端な作りの工場は、しかしここ数…
そこは青空教室だった。 校舎内に作られたいくつかの教室は、おのおの90人前後の子供たちであふれんばかりになっており、校舎の一番端には教室に入りきれなかった、これも同じくらいの人数の子供が地面に敷いたビニールシートのうえで授業を受けていた。 Aさ…
"Welcome to our school!"校舎へ向かうあぜ道を行くと、両脇に並んだ制服姿の少年少女が拍手で我々を迎えながら口々に叫んだ。 「サラーム・アライ・クム」という控えめな声も聞こえる。イスラム圏に共通する挨拶で、返事は「アライ・クム・サラム」だったは…
たった二本のビールだったが、二日酔いまでにはギリギリの状態だった。 約束通り8時に最上階のクラブへ行くと、T氏はすでにテーブルについて朝食を始めていた。 オムレツを語らせると右に出る者のいない昨日の男は非番のようだ。おかげでコーヒーも一杯です…
プールサイドにセットされたテーブルの周りでは、巨大な蚊が灯りに照らされながら飛び回っていた。 先ほどから僕の脳裏を明朝体の「マラリア」がいったりきたりしている。 「季節や地域によっては」マラリアに留意する必要があると外務省のホームページでは…
日が傾いていた。川下りにかかる時間とあの渋滞を考えると少し長居しすぎたようだった。兵士が露払いをしたあとの道をそそくさと歩み、村を後にする。みぞおちのあたりが砂袋でも?んだかのように重く感じた。僕はいったい何を見たのだろうか。村に入ったその…
驚いたことにその村には学校があった。 しかし読み・書き・算盤のそのどれもが役に立ちそうもない村の広場の裏手には、三つの教室を備えたコンクリート製の小さな小学校が確かにあったのだ。 ただしコンクリートは四方を囲む壁だけで、屋根は半分飛ばされて…
僕とT氏は15名を数える取り巻きを従え、1頭の小ヤギと1人の兵士に先導されて、そのおそらく名もなき村に立ち入った。 後ろでは先ほどまで道の両脇に詰めかけて拍手で僕たちを出迎えた人々が言葉もなく静かに散開して、農作業に戻ったり、どこかへ向かった歩…
のっぺりと広がる川面がだらしなく二つに分かれた。その支流と思しき方へボートが分け入ると、そこから20分ほど行ったところが目的地だった。ここもまた、ただ浮き草をかき分けただけの「船着き場」と思しき川辺の一角があり、我々のモーターボートは順番に…
ダッカを出発して2時間あまりの間、車列は進んでは停まりを繰り返した。 市街地はすぐに抜けてしまったが、郊外から水田の広がる農村地帯に入っても道は延々と渋滞が続いている。たまに流れがよくなると、ドライバーは必ずここぞとばかりにクラクションを鳴…
「コーヒーのお代わりはいかがですか」テーブルの脇に張り付いた男が尋ねるのは3回目だった。訊かれる度にイエスと応じることに決めていた僕はもう一度命じた。「イエス、プリーズ」僕が時差の計算を間違えたせいでT氏は1時間も早く朝食に起こされている。言…
空港からダッカ市内へと続く道は渋滞していた。乗用車とバス、その間を埋めるオートリキシャが片側三車線はありそうな立派な道路に敷き詰められている。もともと平日は渋滞がひどいからという理由でこちらの週末にあたる金曜日、土曜日にあわせた日程だった…
在日バングラデシュ大使館は、JR目黒駅を出て山手通りをわたり、さらに10分ほど歩いた閑静な住宅街のなかにある。まったく同じ造りの一戸建てが二軒並んだかたちの大使館の、向かって右手側の建物でビザの申請や発給が行われ、左手の建物には商務部が入って…
夕方5時のシンガポール・チャンギ空港は閑散としていた。 トランジットは1時間しかないし、シンガポール航空の航空券には「出発10分前までにゲートへこなければ、お前を置いて飛行機は飛ぶ」と、心なしかシンガポールらしいと思われる警告が記されているから…
機材はエアバス380。大揉めに揉めた挙げ句やっとこさロールアウトした世界最大の旅客機だ。シンガポール航空はその最初の機体を引き受けたローンチカスタマー である。 いまやゲンかつぎになっているフライト前のうどん にも朝10時ではさすがに手が伸びず、…